研究実績の概要 |
本研究計画では、脳動脈瘤 (以下「瘤」とする)の破裂に至る機序の検証を行うことを目的とした。我々はすでに,高率に瘤の自然破裂が誘発されるモデル動物の樹立に成功しており、ヒトの瘤の病理学的特徴が再現できることを報告している (Miyata H et al. J Neurosurg. 16: 1-11, 2019)。本モデル動物には破裂を起こさない安定な瘤と、破裂危険性の高い瘤の2種類が誘発される特徴があり,同一個体内で破裂危険性の異なる2種類の標本を、破裂の影響が出現する前に比較できる。瘤壁のRNAシーケンス法による網羅的遺伝子発現解析の結果,破裂危険性の高い瘤壁では好中球の関与が示唆された。先述のモデル動物に対してG-CSF投与にて病変部に浸潤する好中球を増加させる試験を行った結果、自然破裂が有意に増加することを確認した。一方、瘤壁の病理学的検討では破裂危険性の高い瘤には壁の器質的変化 (vasa vasorum増生)が認められ、FGF2の発現と相関した。好中球浸潤は瘤壁のvasa vasorum近傍に多いことを確認し報告した (Kushamae M et al Sci Rep. 10: 20004, 2020)。また本モデル動物における瘤壁の器質的変化を惹起する因子として低酸素応答関連因子が候補となるため、Hypoxyprobeを用いたin vivoでの組織低酸素の検出を行い、動脈瘤外膜における低酸素状態の存在を確認した。また免疫染色にて同部位におけるFGF2,VEGFの発現を認めた。外膜の低酸素刺激がFGF2、VEGFを誘導し、血管外膜におけるvasa vasorum増生につながるという病態が推定された。
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