研究課題/領域番号 |
20K17938
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
善積 哲也 国際医療福祉大学, 国際医療福祉大学熱海病院, 講師 (00837429)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 圧迫性脊髄症 / ラットモデル / 顆粒球コロニー刺激因子 / 膜透過性神経誘導ペプチド / BCボックスタンパク質 / サイトカイン伝達シグナル抑制因子 / 皮膚由来幹細胞 |
研究実績の概要 |
本研究は圧迫性脊髄症モデルラットに対する顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)とサイトカインシグナル伝達抑制因子(SOCS)の一つであるSOCS7由来膜透過性神経分化誘導ペプチドの併用療法による運動機能改善効果を検討するが,その前段階として2020年度は以下の2点について研究を行った. ①SOCS-7由来ペプチドによる皮膚由来幹細胞のCHAT陽性神経細胞への分化誘導作用:BCボックスタンパク質の一つであるSOCS-7のBCボックスモチーフ配列を含む膜透過性ペプチドをラットの背部皮膚から分離した皮膚由来幹細胞を含む培地に添加後,SOCS7由来ペプチドを添加された細胞は,添加されていない細胞と比較して有意に神経細胞へ分化を示した.免疫組織染色では,ぺプチドを添加された細胞は有意に抗CHAT抗体陽性であった.ウェスタンブロッティング法でも,ペプチドが添加された細胞は,有意にCHATタンパク質の検出が認められた. ②JAK-STAT経路の抑制と運動ニューロンへの分化:抗JAK2抗体による免疫沈降後のウェスタンブロット解析では,ユビキチンがペプチドを添加された細胞で有意に検出された.またウェスタンブロッティング法により,ペプチドが添加された細胞ではSTAT3とJAK2が検出されなかった. 以上の結果から,SOCS7のBCボックスモチーフを含むペプチドは皮膚由来幹細胞の運動ニューロンであるCHAT陽性神経細胞への選択的な分化誘導作用を示し,そのメカニズムはJAK2のユビキチン化によるJAK-STAT経路の負の制御が関係している.これは脊髄前角細胞の脱落とそれに伴う運動機能低下を示す圧迫性脊髄症ラットモデルの治療に応用できる可能性が示唆され,すでに申請者が報告した圧迫性脊髄症モデルに対するG-CSFの神経保護効果との相乗効果も含め,今後研究実施計画に基づいた動物実験を進める予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度にはBCボックスタンパク質の一つであるSOCS7のBCボックスモチーフ配列を含む膜透過性神経分化誘導ペプチドをラットの背部皮膚から分離した皮膚由来幹細胞を含む培地に添加後,皮膚由来幹細胞の神経細胞への分化を形態的に確認し,また抗CHAT抗体を用いて,免疫染色およびウェスタンブロッティングを行い,分化したニューロンが運動ニューロンであることを確認した.また圧迫性脊髄症モデルを安定的に作成することにも成功した.すなわちC5,6椎弓下に厚さ0.7mmの吸水膨張性ポリマーを挿入されたWistar ratは,そのポリマーが組織の水分を吸収し時間をかけて局所脊髄圧迫が増強されることで徐々に脊髄症が発症・増悪していく.我々が作成したこの圧迫性脊髄症モデルラットは,頚髄圧迫導入直後は全く運動機能の低下は認めないが,5週間後より運動機能の有意な低下が現れ,その後増悪していく.さらに26週間の時点で有意な脊髄前角細胞(運動ニューロン)の減少が認められることを確認した. SOCS-7由来のペプチドにより多能性幹細胞である皮膚由来幹細胞が選択的に運動ニューロンに分化誘導されること,さらに圧迫性脊髄症ラットモデルを安定的に作成できたことで,今後本格的にこのモデルに対する治療実験を開始することが可能である.具体的には,圧迫性脊髄症モデルの運動機能低下が有意となった時点でこのペプチドを投与することで内因性の神経幹細胞の運動ニューロンへの分化誘導が起こり,頚髄圧迫により脱落した脊髄前角細胞を補完し,運動機能の保持または運動機能低下の改善効果を示すかを,さらに神経保護効果と神経分化調節機能を有するG-CSFとSOCS-7由来のペプチドの相乗効果により脊髄前角細胞温存効果及び運動機能維持につながるかを2021年度以降に追究していく.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度以降,圧迫性脊髄症モデルラットに対するG-CSFとSOCS7由来膜透過性神経分化誘導ペプチドの併用療法による運動機能改善効果とメカニズムを検討する. 1) 圧迫性脊髄症ラットモデル作成後,ラットを以下の4グループに振り分ける.このモデルは,脊髄圧迫導入後8週間目ではすでに脊髄症が発症し,運動機能が進行性に低下しているため,この時点で治療介入を開始する.Group A:圧迫性脊髄症ラット作成後8週目から毎日生理食塩水を皮下投与(n=12),Group B:圧迫性脊髄症ラット作成後8週目から毎日G-CSF(15μg/kg/day)皮下投与(n=12),Group C:圧迫性脊髄症モデルラット作成後8週目にSOCS7由来ペプチド(濃度3μM)を単回経静脈投与を行い,作成後8週目以降毎日生理食塩水を皮下投与(n=12),Group D:圧迫性脊髄症モデルラット作成後8週目にSOCS7由来ペプチド(濃度3μM)を単回経静脈投与を行い,作成後8週目以降毎日G-CSF(15μg/kg/day)を皮下投与(n=12) 2) 運動機能評価.圧迫性脊髄症モデル作成直前から,作成後26週間目まで毎週ローターロッド持続歩行時間および前肢握力の測定を行い、運動機能評価を行う. 3) 免疫組織学的評価.圧迫性脊髄症モデルラット作成後26週間後に還流固定を行い,免疫組織学的な評価へと移行する.C5-6の脊髄圧迫部位を採取して,凍結切片を作成,抗CHAT抗体を用いた運動ニューロン(脊髄前角細胞)の評価,また抗DCX抗体を用いた新生ニューロンの評価を行う.申請者はG-CSFの圧迫性脊髄症モデルに対するアポトーシス抑制効果も示しており(Yoshizumi et al. Spine 2016),本研究でもTUNEL染色を行い,細胞死の評価を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により,米国神経外科学会議やNeuroscience2020などの国際学会に参加することができなかった. 従って2021年度にシカゴで開催されるNeuroscience2021などの学会参加のために使用する予定である.ただし新型コロナ感染症の状況により学会参加ができない場合は,試薬,ラットなどの購入に使用することも検討している.
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