研究課題/領域番号 |
20K17943
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
江口 盛一郎 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (80648650)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 悪性髄膜腫 / 悪性転化 / エネルギー代謝 / メタボローム解析 / トランスクリプトーム解析 / ゲノム解析 |
研究実績の概要 |
本研究は難治性の悪性髄膜腫に対して, 腫瘍細胞の代謝制御をターゲットとした治療方法を確立することを最終目的としている。世界保健機関(WHO)のグレート3に分類される悪性髄膜腫は, その多くはWHOグレード1ないし2の髄膜腫が再発し, 悪性転化したことによって発生する。このため, 髄膜腫の悪性転化に関与する因子があると考えられ, この因子が新たな治療のターゲットになるのではないかと考えた。過去の研究で癌細胞ではエネルギー代謝が正常の細胞は異なることが知られており, 我々は悪性髄膜腫細胞のエネルギー代謝に着目した。初年度である本年はWHOグレード1のMeningothelial meningioma, 同2のAtypical meningioma, 同3のAnaplastic meningiomaの髄膜腫検体に対してメタボローム解析を行った。解析には探針エレクトロスプレーイオン化法(PESI/MS/MS)という試料の前処置が不要な解析方法を用いた。72成分のアミノ酸, 脂肪酸, 糖類に関して解析した結果, グレート1と2の比較, 及びグレード1と3の比較においてグレート2, 3で上昇している代謝物が複数同定された。多変量解析を行った結果, 髄膜腫の悪性化は単純にグレード1→2→3という流れで進むのではなく, グレート1から2への変化に伴う代謝回路の変化と, 1から3への変化に関与する代謝回路の変化は全く異なることがわかった。また, 同じグレード2の髄膜腫でも代謝プロファイルが異なる群があることも明らかとなり, WHOグレードとは関係なく, 代謝物により髄膜腫が分類される可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度はヒト髄膜腫検体に対してメタボローム解析を行うことで髄膜腫の悪性化に伴い変動する代謝経路を同定することを目標とした。このため, 凍結保存されていた髄膜腫検体をWHOグレード別にメタボローム解析を行い, 得られたデータに対して多変量解析を行った。その結果, 各グレード間の比較によりグレート1と2, グレード1と3の比較で有意に変動する代謝物が確認された。これらの結果をエネルギー代謝マップに投射することで, グレード1と比較してグレート2とで変動している代謝経路と, グレード3で変動している代謝経路を同定することができた。また, 同じグレード2でもグレード1, 2, 3のいずれとも統計学的には異なる代謝プロファイルをもつグレード2の亜群が存在することも分かった。これらの結果から, これまでに髄膜腫はグレード1から2を介して3になる(もしくは1から直接3になる)と当然のように考えられていた, すなわち同じベクトル上で1→2→3と変化することで悪性髄膜腫になるのではなく, 代謝経路の異なる部位に変動が生じて悪性化することがわかった。 以上の結果から初年度に目標としていた内容は概ね達成したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画では, 2年目は次世代シーケンサーを用いて既知の遺伝子変異を確認し, DNAマイクロアレイ法によって網羅的遺伝子解析を行い代謝経路の変動に関与する責任遺伝子を同定することを予定していた。しかし, 既知の遺伝子変異を確認する意義は乏しく, DNAマイクロアレイ法による網羅的遺伝子解析に焦点を当てた方が, 初年度に得られた結果とも照合して, 髄膜腫の悪性化に伴い変動する代謝経路と関連遺伝子の関係を確認できる可能性が高いと判断した。そこで, 初年度にメタボローム解析を行った髄間腫検体を対象に, 各グレード別にDNAマイクロアレイ法を用いてトランスクリプト-ム解析を行う。この結果を初年度に得られた結果とを照合し, 髄膜腫の悪性化に関連して変動する代謝経路とその責任遺伝子を同定する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度はコロナウイルスの世界的流行の影響もあり, 当初予定していた出張の大半が行い得なかった。国際学会への参加は断念せざるを得ず, また国内学会も現地開催ではなくWEB開催となったため, 旅費として使用する予定であった経費の使用がゼロとなった。また, 初年度に行ったメタボローム解析に必要となる消耗品も, 余剰分の消耗品が残っていたためこれらを優先的に使用することで, 消耗品の購入に必要な物品費もかなり低額に抑えられることができた。次年度にかなりの額を回すことが可能となったため, 一検体当たりの分析費用がかかるトランスクリプトーム解析(DNAマイクロアレイ法)を行う検体数を増やす予定である。
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