研究最終年度は、メタボローム解析を行った髄膜腫検体に対してトランスクリプトーム解析を行い、両者の結果の統合解析を行った。その結果、病理組織学的悪性度の異なる3群(WHO grade: G1、G2、G3)と、昨年までの解析で明らかになったGrade 2の亜型(G2m)の4群間で、発現している遺伝子が異なることが明らかになった。G2m群を除外すると、発現遺伝子のプロファイルにおいても、病理組織学的悪性度の異なる3群(G1、G2、G3)は同軸上にはなく、代謝物のプロファイルと同様、G1→G2の変化とG1→G3の変化は異なる方向性の変化が生じていると考えられた。また、G2m群はこれらのいずれの群からも外れており、特に、G2群との単独比較でも発現している遺伝子が異なっていた。この結果から、本研究で対象としたG2群(異型性髄膜腫)には分子生物学的悪性度が異なる腫瘍が混在していることが示唆された。これまでにもG2群には臨床的に予後良好群と予後不良群が混在することが経験的にわかっていたが、本研究の結果は、分子生物学的な面からこの事実を証明することとなった。また、多変量解析の結果から、G2m群は生物学的な悪性度はG1群に近い結果となったが、エネルギー代謝の面においては多くの癌で認められるグルタミノリシスが亢進していることも明らかとなり、悪性腫瘍に認められる変化を持ち合わせていると考えられる。以上の結果から、本研究における「髄膜腫が悪性化するに伴い、代謝経路が変動する」という仮説が一部正しいことを証明できたものの、病理組織学的悪性度が高いG3群で同様の変化は生じておらず、グルタミノリシスの制御だけでは悪性髄膜腫の腫瘍制御は容易ではないと考えられる。以上の結果を、2022年9月に横浜で開催された日本脳神経外科学会第81回学術総会のシンポジウムで報告した。
|