研究課題/領域番号 |
20K17944
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
落合 祐之 日本大学, 医学部, 研究医員 (20815469)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 悪性神経膠腫 / 低温大気圧プラズマ / アポトーシス抵抗性 / フェロトーシス |
研究実績の概要 |
1.APAMのグリオブラスト-マに対する抗腫瘍効果とその誘発する細胞死の鉄依存性をA172、T98G、U251MGの3細胞株で確認できた。APAMは濃度依存的に細胞死を誘発したが、濃度によってオルガネラ形態に対して異なる作用を及ぼした。低濃度ではミトコンドリアの分裂ならびに核の縮小を、高濃度ではミトコンドリアの凝集ならびに核の激しい断片化をそれぞれ引き起こした。これに対してフェロトーシス活性化剤のErastin による細胞死ではこのような変化は見られなかった。 2.次に、この細胞死と既知の細胞死と異同を調べた。特異的阻害剤Ferrostatin-1はErastin による細胞死を抑制したが、APAMによる細胞死を抑制しなかった。カスパーゼの阻害剤Z-VAD-FMK、オートファジーの阻害剤 3-Methyladenine及びネクロトーシスの特異的阻害剤Necrostatin-1いずれもAPAMによる細胞死を抑制しなかった。 3.細胞内鉄動態を知るために、鉄(II)検出プローブFerroOrangeを用いたライブセルイメージングを行った。無処理細胞では網状ネットワークと点状の二つのタイプのシグナルが観察された。APAM処理によってこれらのシグナル全体の減少と点状シグナルの凝集が増加した。FerroOrangeは、小胞体ならびにゴルジ体に存在する鉄(II)を検出すること、及びそれらの形態から、ネットワーク状シグナルは小胞体内の、点状シグナルは、ゴルジ体内それぞれの鉄に起因すると推測され、APAMはオルガネラ内の鉄を減少させる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年は新型コロナウィルス流行の影響によって、科学研究費の大学への納入が大幅に遅れたために、高額の物品の発注が容易にできなかった。さらに、発注してもアメリカ、ドイツ等からの海外輸入品をはじめ多くの物品の調達が非常に困難であったため、計画していた実験ができないことが多かった。特に、細胞死モードの解析の中心である、フェロトーシスの関与の検討で行う予定であった細胞内各種ROSの検出やGPX4活性の測定、GPX4の遺伝子ノックダウンによる解析はすべて行えなかった。しかし、上記したように、APAMによる細胞死はフェロトーシスとは異なるという結果が得られたためこれらの検討はスキップできると考えられる。また、当初は薬理学的な手法に加えて、ウェスタンブロッティングによる分子レベルの解析を行う予定であったが、物品の調達ができなかったため、次年度以降の課題となった。このような実験計画の予定変更はあったが、当初予定した細胞死モードの解析の大部分は完了した。加えて、APAMによる細胞内鉄動態の変調という新しい知見が得られたことによりその作用機構の解明において新たな手掛かりが加えられた。もう一つの課題である、ミトコンドリア形態異常の細胞死誘発における役割に関しては、APAMによる細胞死が濃度によって生化学的な性格を異にするのと対応して異なるミトコンドリア形態異常が起こることを発見した。さらに、このミトコンドリア形態異常は細胞死の極めて早期に起こること、核の形態変化と相関することを明らかにした。また、鉄の除去によってこれらのオルガネラの傷害が軽減することを見出した。これらの結果は、鉄ストレスがオルガネラの傷害の要因となること、及びミトコンドリアの形態異常が核の傷害と関連している可能性を示唆する。
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今後の研究の推進方策 |
現在広く認められているフェロトーシスのモデルでは(1)関与する不安定鉄(II)は鉄貯蔵タンパク質のフェリチンのオートファジー分解によって供給される。(2)ミトコンドリアが関与せず、核の形態もほとんど変化しないことになっている。これに対して、APAMによる細胞死では小胞体ならびにゴルジ体に存在する鉄(II)の動態に変化がある可能性が示された。そこで、細胞内鉄量をフェロジン法で直接測定してその変動を検討する。小胞体やゴルジ体内の鉄がこれらのオルガネラのオートファジー分解によって放出される可能性を検討するために、(1)APAMがオートファジーを誘発するかどうかを調べる。(2)それぞれのオルガネラのミクロオートファジーが起こるかどうかをオートファゴソーム、オートライソゾームとの共存の有無で検討する。また、APAMが小胞体分解の要因の一つである小胞体ストレスを起こすかどうかを小胞体ストレスマーカーGRP78、XBP-1、CHOP等の動態をモニターして検討する。 APAMがゴルジ体ストレスを起こすかどうかをcyt-IDを用いたフローサイトメトリーならびにウエスタンブロットによるLC3-II発現解析で調べる。細胞死のモードの解析では、今年度行えなかったカスパーゼ分子群及びRIP1/3のリン酸化の発現解析を行う。
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