低温プラズマ照射液(Air Plasma activated medium : APAM)のグリオブラストーマに対する抗腫瘍効果をA172、T98G、U251MGの3細胞株で確認できた。APAMは濃度依存的に細胞死を誘発した。APAMによる細胞死はカスパーゼ阻害剤Z-VAD-FMK、オートファジー阻害剤 3-Methyladenineおよびネクロトーシス阻害剤Necrostatin-1で抑制されなかった。加えて、Annexin V染色を用いたフローサイトメトリーでAPAMによりアポトーシス(Annexin V陽性細胞)の増加は認められず、またウエスタンブロッティング解析でも活性型カスパーゼー3の出現が見られなかったことから、アポトーシスの関与は小さいと結論される。鉄負荷が細胞死を増強し、過酸化水素(H2O2)消去酵素カタラーゼが細胞死を抑制したことから、鉄ならびに酸化ストレスの関与が推測された。この考えと一致して、二価鉄の除去は細胞死を抑制したが、フェロトーシスの特異的阻害剤Ferrostatin-1は効果がなかった。細胞死に先行してミトコンドリアの断片化ならびに傷害された核の一方の極への集積 monopolar perinuclear mitochondrial clustering (単極性ミトコンドリア核辺縁部クラスター形成、MPMC)が誘導され、二価鉄の除去はMPMCならびに核傷害も抑制した。MPMCもH2O2および二価鉄依存的に誘導された。さらに、ミトコンドリア内のROS、カルジオリピン酸化、過酸化脂質が増加し、核の一方の極に集積した。これに対して、正常細胞ではミトコンドリア内のROS増加、MPMC、ならびに細胞死は誘導されなかった。以上の所見から、APAMはMPMCならびにフェロトーシスとは異なる鉄依存性細胞死を誘発して腫瘍選択的傷害作用を発揮すると考えられた。
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