研究実績の概要 |
悪性髄膜腫は有効な治療法が未確立でそのために予後が不良であり、新規治療法の確立が望まれている。以前我々はマウスモデルを用いて抗悪性腫瘍薬ゲムシタビン(Gem)により高悪性度髄膜腫の長期制御が可能であったことを世界に先駆けて報告した。更にGem感受性に関わる分子であるdCKおよびhENT1に注目し、高悪性度髄膜腫のゲムシタビン高感受性の機序も明らかとした。様々な悪性度の複数の髄膜腫細胞株と外科的に切除されたgradeⅠ-Ⅲの髄膜腫病理標本を用いた検証により、結論としてhENT1の発現は高悪性度の髄膜腫細胞の増殖と生存、およびdCKの発現に必要であることが解った。更にhENT1およびdCKの高発現は髄膜腫患者におけるより強い腫瘍細胞増殖活性およびより短い生存と相関していた。これらの結果から、hENT1とdCKは髄膜腫患者の予後予測因子として実用可能であり、またGemへの反応性の予測因子として機能しうるという結果が示された。 以前の報告により悪性髄膜腫に対するGemの臨床応用の可能性が高まったが、悪性髄膜腫は手術後に術後補助放射線療法を要する疾患であり、電離放射線(IR)との併用でのGemの腫瘍抑制効果については未検討であった。そこで今回、これらの相互作用を調べた。悪性髄膜腫の細胞株と異種移植片を用いてGemの放射線増感効果を検討した。Gemはin vitro, in vivoにて老化を誘導することにより悪性髄膜腫細胞をIRに対して感作させた。GemはIRによる細胞内の活性酸素種(ROS)産生を増強し、GemとIRの併用により細胞増殖抑制/老化が誘導されるとともに、活性酸素除去剤であるN-アセチルシステインによってこれらが抑制されたことからGemとIRの併用により誘導されるROSの極めて重要な役割が示唆された。結論として悪性髄膜腫の放射線増感剤候補としてのGemの可能性を示した。
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