研究課題/領域番号 |
20K17955
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
岡田 正康 新潟大学, 医歯学総合病院, 助教 (00626492)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | てんかん / 海馬硬化症 / GAP-43 / リン酸化 / 異常神経回路 |
研究実績の概要 |
本研究は,海馬硬化症のてんかん原生を示す異常神経回路の形成メカニズムについて神経成長因子の一つであるGAP-43のリン酸化の着目点での解明し,さらにそのリン酸化の制御によって異常回路形成を抑える治療法の開発の基礎を確立することを目標としている.そのため,3年間の本研究計画における初年度 (令和2年度) では,GAP-43のリン酸化によって海馬硬化症の異常回路を描出できるのかを目標に研究を進めた. 順調に解析が進み,次の結果を得た.(1)齧歯類で発見したGAP-43 T(トレオニン)172の配列は,霊長類でも保存されていたが,実際にマーモセットの新仔児脳を用いることで,生化学的,組織学的にGAP-43 T181 (齧歯類ではT172)のリン酸化の存在を証明した.(2)ヒトGAP-43のコンストラクトをHEK293T細胞に発現することで,ヒトGAP-43においてもGAP-43 T181 のリン酸化の存在,さらにその制御キナーゼが齧歯類と同じくJNKであることを確認した.(3)ヒトiPS由来神経細胞を用いることで,ヒト成長円錐でもGAP-43 T181 が発現していることを細胞染色で検証した.以上についてはmolecular brain誌 (M.Okada et al. 2021) に掲載された. 正常神経において,GAP-43 T181 (T172)のリン酸化が齧歯類から霊長類までの保存されたリン酸化で,キナーゼがJNKであるという証明のもと,(4)難治性てんかんである海馬硬化症の海馬扁桃体手術摘出組織におけるGAP-43のリン酸化発現とそのキナーゼの発現を検証したところ,変性海馬に残る神経細胞にGAP-43 T181のリン酸化が発現し,さらにこの部位は,摘出直後組織でのフラビンイメージングで,刺激に応じ活性が残る部位であることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
進歩状況が期待以上であった理由は,次の3点である.(1)GAP-43 T181(齧歯類のT172)のリン酸化は,齧歯類から霊長類まで正常神経細胞に保存されたリン酸化であることを論文化できたこと.(2)ヒトの海馬硬化症の臨床サンプルを用いて,GAP-43 T181のリン酸化が,そのキナーゼの発現とともに組織学的に確認でき,さらにその発現をフラビンイメージングによる生理学的な機能とともに検証できたこと.(3)マーモセットの新仔脳から抽出したペプチドをリン酸化プロテオーム解析し,GAP-43のリン酸化部位としてT181(齧歯類のT172)のみならず,T107,S(セリン 151の3箇所が量的に多く存在することを論文報告できたこと. 研究初年度で,これまで未解明であったヒトのGAP-43のリン酸化について,以上のように大枠で理解できた.
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今後の研究の推進方策 |
本研究は,すでに2021年4月に論文化した研究を深め,海馬硬化症とGAP-43 T181のリン酸化とのそのキナーゼの発現局在について,フラビンイメージングによる生理学的な機能との関連について,論文化を行いたい.その上で,すでに作製に着手した薬剤誘発モデルマウスを用いて,GAP-43のリン酸化を抑制することによる実験を行う.齧歯類のGAP-43 T172のキナーゼはJNKであるが,JNK阻害薬(例えばSP600125)などによって,てんかんの抑制と組織学的な異常回路の形成抑制が起こるかについて,検証を行う. さらに霊長類における神経成長におけるGAP-43のリン酸化部位として,T181(齧歯類のT172)のみならず,T107,S151の3箇所を論文報告した.このうちGAP-43 S151は齧歯類ではS142として存在,一方T107は齧歯類には存在しない配列であるが,これら新たに発見した2箇所のリン酸化部位についても抗体を作製し,T181と同様に海馬硬化症で検証する.こうして神経成長因子として知られるも機能が未知であったGAP-43分子について,リン酸化の切り口で霊長類で解明されることが期待できる.
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度内に発注した試薬が納品されず,その分を繰り越したため。
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