研究課題/領域番号 |
20K17960
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
青木 恒介 名古屋大学, 医学系研究科, 特任助教 (10759773)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 神経膠腫 / 治療抵抗性 / CRISPR/Cas9 |
研究実績の概要 |
脳腫瘍、特に低悪性度神経膠腫のゲノム異常が明らかになりつつある。神経膠腫の8割はIDH1変異が腫瘍発生に関与し、乏突起膠腫系と星細胞腫系の系譜に分かれ、特有の遺伝子変化を獲得しながら、 時間空間的に指向性を持って悪性転化・進展する。低悪性度神経膠腫に対する化学療法や放射線治療は腫瘍縮小効果を示すが、経過中次第に抵抗性を示すようになる。これらの腫瘍が腫瘍発生~診断~悪性転化~腫瘍死という時間軸のなかで、治療抵抗性をいかに獲得してくるのかは不明である。本課題では、IDH1変異神経膠腫において(1)治療抵抗性を持つサブクローンの起源と、(2)腫瘍発生~悪性転化~腫瘍死という時間軸におけるゲノムとエピゲノムの変化が、治療抵抗性にいかにかかわっているのかを明らかにすることを目指す。 我々は、IDH1変異神経膠腫細胞株に対し、新規分子標的薬である変異IDH1阻害剤を投与した際の、細胞の増殖能や形態的変化、変異タンパク質が産生するD-2-ヒドロキシグルタル酸(D2HG)の発現量や、RNAシークエンスによる網羅的な遺伝子発現を確認した。その結果、変異IDH1阻害薬は、D2HGの発現を有意に抑制し、DNAおよびヒストンのメチル化による抑制されていた遺伝子の発現が高まる一方で、増殖能や細胞形態には変化を起こさなかった。当初の計画では、DNAバーコードライブラリを用いた治療によるサブクローン変化の追跡を予定していたが、入手可能な細胞株は阻害薬投与の有無による増殖変化を示さなかったため、サブクローン変化追跡には不向きと判断された。現在、CRISPR/Cas9を用いて遺伝子機能と治療抵抗性のゲノムワイドな探索を行うため、レンチウイルスによるガイドRNAの導入実験を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
IDH神経膠腫に対する変異IDH阻害薬によるD2HGの発現低下や、それに伴うDNAおよびヒストン脱メチル化による遺伝子発現変化を同定できている。変異IDH阻害薬に対する増殖能の変化は認めなかったという研究結果によって、一部研究計画変更はあったものの、修正後の研究計画は遅滞なく進められている。以上より、おおむね順調に進んでいると判断された。
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今後の研究の推進方策 |
CRISPR/Cas9を用いて遺伝子機能と治療抵抗性のゲノムワイドな探索を行う。同定された遺伝子に対し、siRNAを用いて結果の再現性を確認した上で、特にDNA/ヒストンのメチル化などエピゲノムに関わる遺伝子が治療抵抗性に関わっている場合には、バイサルファイトシークエンスやChIPシークエンスなどにより、当該変化を詳細に検討する。また、分子標的薬を用いてin vitro / in vivoでの有効性を検証し、経路の下流シグナルの発現変化も解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究結果に基づき、研究計画の一部変更を行なったため、次年度使用額が生じた。CRISPR/Cas9によるゲノムワイドな探索を中心とした研究を中心に、研究費を使用していく予定である。
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