研究課題
今研究期間を通じて、もやもや病患者21名、対照として脳動脈瘤患者5名、てんかん患者6名から脳表の動脈検体を採取、total RNAを抽出し、マイクロアレイによる網羅的転写解析を行った。messenger RNAに対する網羅的解析では免疫応答に関わる遺伝子群がもやもや病において高発現となり、酸化的リン酸化と遺伝子修復に関わる遺伝子群がもやもや病群では低発現となっていた。先行する研究では循環血に対するマイクロアレイや病理所見において免疫応答の関連を示唆する報告がなされていたが、今研究では初めて、もやもや病の病変部である頭蓋内動脈においても同様の変化が遺伝子発現レベルにおいて生じていることが見いだされた。この結果について論文化し発表を行った(Neurosurg Focus.51(3),2021)。またlong non-coding RNAに対する網羅的解析では、ゲノム上で免疫応答や血管形成に関わる遺伝子群の近傍にコードされたlong non-coding RNAが発現変動しており、もやもや病の病態生理においてこれらのlong non-coding RNAの関与が示唆された。この結果についても論文化を行い現在投稿中である。またもやもや病群において、感受性遺伝子とされるRNF213 p.R4810Kの一塩基多型について比較を行った結果についても現在論文化を行い、今後欧文誌への投稿を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
申請において今研究の目的は「マイクロアレイを用いて、成人・小児を含めたもやもや病患者の病変部の網羅的な遺伝子発現解析を行い、非もやもや病患者検体との比較により、もやもや病患者の病変部に特異的な発現遺伝子・パスウェイの特定を行うことである」とした。研究実績の概要に記載したように、研究期間内に実験と解析を行い、論文化し欧文誌に掲載を行うことができた。さらに解析の対象をlong non-coding RNAやRNF213 p.R4810K変異の有無にまで広げるなど研究の進展を見ており、今研究課題は順調に進展していると考えている。
研究の目的のうち、現在も達成できていないこととして、小児もやもや病患者における解析があげられる。これは対照とする疾患群の年齢分布が比較的高齢であることと、小児もやもや病検体が成人くらべさらに微量であることが原因としてあげられる。対照群の年齢については、てんかん患者の検体の集積を行うことで、また小児もやもや病患者検体に対する網羅的転写解析には、スタートRNA量がマイクロアレイよりも微量から可能である次世代シークエンサーを用いることで可能になると考えている。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
Neurosurgical Focus
巻: 51(3) ページ: E3
10.3171/2021.6.FOCUS20870