研究課題
神経系において、損傷遠位部の軸索はワーラー変性(WD)をきたすことが知られている。WDにおける主要な関連因子の一つにアデノシン三リン酸(ATP)があるが、損傷遠位神経のATPが具体的にどのような時間空間的変化を示すのかは分かっていない。また、損傷遠位部のATP産生源となる代謝経路についても不明な点が多い。そこで我々は、細胞内ATPの動態を正確に評価すべく、遺伝子導入によりin vivoでのATP測定を可能とするGO-ATeam2プローブを用いた。本研究の目的は、損傷遠位ATPの時間空間的変化と産生源を明らかにすることである。坐骨神経切断遠位において、ATPは切断1日後より徐々に低下し、切断2日後に明瞭化するWDの進行に先行していた。ATPの主な産生源であるミトコンドリアは、軸索内では切断1日後より変性したが、シュワン細胞では切断2日後まで変性しなかった。切断2日後の免疫染色と質量分析では、MCTのシュワン細胞内での活性化・解糖系のシュワン細胞・軸索内での活性化を示したが、クエン酸回路は軸索内で不活化を示した。したがって、切断遠位神経のATP産生源として、シュワン細胞と軸索内双方における解糖系の関連が示唆された。解糖系阻害剤(2-DG)・MCT阻害剤(4-CIN)投与はDMSP投与に比してATP低下とWDの進行を示した。一方でクエン酸回路阻害剤(MSDC-0160)投与は上述の変化を示さなかった。さらに、モノカルボン酸であるピルビン酸エチル(EP)の局所投与により、生理食塩水投与群に比してATPの増加とWD進行の遅延効果が示された。したがって、切断遠位のATP産生源としてシュワン細胞と軸索内双方における解糖系の関連が示唆された。ATPに注目したWDの病態解明は、神経外傷や変性疾患において、エネルギー代謝経路を標的とした治療開発へ貢献できる可能性がある。
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eNeuro
巻: 10 ページ: -
10.1523/ENEURO.0353-22.2023