研究課題
悪性度の高いグリオーマ(膠芽腫)は、治療後にかならず再発し、平均余命は約1年である。ここ30年間、生存期間がほとんど延長しておらず、根治療法の確立にはさらなる病態の解明が必要である。最近、がんの再発や転移の原因としてがん幹細胞の存在が注目されている。グリオーマは強い浸潤能がある。そのため、腫瘍細胞は脳の正常部位に深く染み渡り、外科手術では全摘出できない。さらに化学療法(テモゾロミド)と放射線治療の集学的治療を行っても、治療抵抗性をもつがん幹細胞が増殖をくりかえす。再発の根源であるがん幹細胞をターゲットとした治療法は有効であると考えられる。しかし、特異性の高いバイオマーカーは不明のままである。また、テモゾロミドの効果を上回る薬物を見出すことができれば、根本的な治療法となることが期待される。私たちの研究グループはこれまでに、グリオーマ患者の外科切除検体から、がん幹細胞を樹立している。そして、がん幹細胞の細胞膜において、一過性受容体電位型チャネル(TRP)の一種であるTRPMLが局在することを免疫組織学的に同定した。以上の成果を踏まえて本研究は、TRPMLをコードするMCOLNについて、RNAシーケンス解析で、遺伝子発現量、融合遺伝子、スプライシングバリアント、および点変異を調べた。膠芽腫の8患者由来のがん幹細胞株における、分子の発現量は、MCOLN1 (19 TPM) > MCOLN2 (16 TPM) > MCOLN3 (7 TPM)の順位であった。さらに、4患者に共通して、MCOLN2において、アミノ酸置換の変異を2つ発見した。この変異体はグリオーマの病態発生に関与する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
膠芽腫由来のがん幹細胞における、MCOLN分子の発現量を明らかにした。MCOLN2において、アミノ酸置換の変異を2つ見いだした。
脳腫瘍モデル動物におけるTRPML遮断薬の有効性を検証する。私たちの研究グループの先行研究の成果から、血液脳関門透過性がある既存薬Lを試験する。がん幹細胞をマウスに移植した後に腫瘍が形成する期間内で、薬物を経口投与する。薬物の効果はマウスの生存期間で評価する。
予定よりも少ない試薬を用いて効率よく実験を遂行できたため、次年度使用額が生じた。消耗品費(培養関連と動物実験)に充当する。
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