特発性大腿骨頭壊死症(ONFH)は、ステロイド使用やアルコール大量摂取が発生と関連することが報告されているが、発生メカニズムは未だ不明である。好中球細胞外トラップ(NETs)は微小血栓形成との関連が報告されており、全身性エリテマトーデスやネフローゼ症候群などのONFH患者の代表的な併存症の病態に関与することが明らかとなっている。加えて、大量飲酒によりNETsの形成が亢進することが近年報告されており、本研究では、NETsの異常とONFH発生が関連するという仮説のもとで、ONFH患者の変形性股関節症(OA)患者の骨頭周囲組織の組織学的評価とNETsを強発現させた動物モデルを用いて壊死発生との関連性を調査することを目的とした。 人工股関節置換術を施行したONFH、OA患者から骨頭及び骨頭周囲組織を摘出し、パラフィンブロック薄切標本を脱パラ後、NETsマーカーとしてシトルリン化ヒストンH3、好中球マーカーとしてミエロペルオキシダーゼに対する蛍光免疫染色を行った。続いて、Wistar-Kyoto(WKY)ラットにNETs形成好中球及び非誘導好中球を尾静脈より投与し両側大腿骨頭及び周囲組織の組織学的検討を行った。 ONFH群では全例NETsを発現し、OA群では発現しなかった。虚血によってNETsが発現したのか、NETsの発現によって虚血が起こったかを明らかにするため、動物実験による検証を行なったところ、NETs形成好中球を投与した群では、大腿骨頭周囲組織のNETs発現とHIF-1αの発現上昇が観察され、大腿骨頭の骨壊死が確認された。NETs非誘導群ではこれらの現象は出現しなかった。 動物実験の結果からNETs誘導によって、局所的な血流低下と大腿骨頭の阻血が起こり、結果的に骨壊死が誘導される可能性が示唆された。臨床検体の結果からも、ONFHの発生にNETsの発現が関連することが示唆された。
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