人工関節(インプラント)周囲感染は、バイオフィルム感染症であり、インプラントを温存し感染を鎮静化する有効な治療法は未確立である。本研究の目的は、免疫応答の調整作用や抗菌ペプチドの分泌能を有する間葉系幹細胞を用いた人工関節(インプラント)周囲感染などのバイオフィルム感染症に対する新たな治療法を検討することである。 今回、抗菌ペプチドの中でもバイオフィルム阻害効果を持つCathelicidinに注目した。これまで脂肪由来間葉系幹細胞(ADSCs)のCathelicidin分泌能に関して検討した研究は少ない。そこでラットからADSCsを作成し、ラットのCathelicidinであるrCRAMPの分泌能を評価した。その結果ADSCsはBMSCsと比較し、rCRAMPの発現量が多い傾向にあった。本結果より臨床応用に近いADSCsにおいてもCathelicidinの分泌能を有することを証明した。さらに本研究ではADSCsにシプロフロキサシン(CPFX)を含有しシート化に取り組んだが、十分な量を含有しシート化する技術にはさらなる工夫が必要であった。しかし同時により効果的な投与方法を模索する中で、 Dil labelingしたADSCsをMSSA人工関節周囲感染モデルラットに静注し集積部位を評価したところ、局所投与では届きにくい骨髄内の感染したインプラント周囲に集積することを明らかにした。そこでMSSA 人工関節周囲感染モデルラットに対して抗菌薬にADSCsを併用することで、抗菌薬単独に比べて体重減少、インプラントのバイオフィルム内細菌数、膿瘍の減少に優れており、インプラント周囲のOsteolysis、BMDの低下を最小限に抑えることを示した。さらに感染部位の抗菌ペプチドのカテリシジン発現の有意な増加を認めた。本結果は新しい細胞ベースの治療戦略を提供できる可能性がある。
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