発生過程における細胞系譜追跡の手法を用いた解析によって、前十字靭帯(ACL)発生過程中にScleraxis(Scx) とSRY-box containing gene 9(Sox9)を共発現する細胞がみられることが明らかとなっている。本研究の目的は、ACL再建術において遺残組織中のScx とSox9発現細胞の関与を解析、確認することである。 当該年度においては、(1)野生型ラットを用いて遺残組織を温存したラットACL再建モデルと郭清モデルを作成し、経時的に移植腱の力学的強度を計測した。術後4週、16週に膝組織を採取し、大腿骨、脛骨を固定後、張力測定器を用いて、引っ張り破断試験を行った。術後4週の結果では、遺残組織温存モデルでは、郭清モデルと比較し最大破断強度、最大破断応力ともに高い傾向がみられたが、有意差はみられなかった。術後16週の結果でも両モデルの最大破断強度、最大破断応力に有意差はみられなかった。(2)ScxGFP遺伝子改変ラットのACLを切離し、切離前、切離後2日、1週、2週、4週に、免疫組織学的評価を行ったところ、遺残組織内にScx陽性細胞を認め、切離後2日と比較し、切離後1週、2週に陽性細胞が多くみられた。(3)ScxGFP遺伝子改変ラットを用いて、遺残組織を温存したACL再建モデルと郭清モデルを作成し、再建靭帯の免疫組織学的評価を行ったところ、術後4週で遺残組織温存モデルでは郭清モデルと比較し、Scx発現細胞が多く認められた。 以上の結果および昨年度の結果より、遺残組織を温存したACL再建モデルでは、術後の移植腱の力学的強度が早期に回復する可能性が考えられた。また、移植腱再靭帯化の過程におけるScx発現細胞の関与が考えられ、遺残組織を温存することで移植腱内のScx発現細胞を増加させる可能性が考えられた。
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