研究課題/領域番号 |
20K18011
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
菊地 鉄太郎 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (00650805)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 骨格筋 / 筋芽細胞 / 分化 / ストレスシグナル |
研究実績の概要 |
骨格筋の再生・修復に関わる筋芽細胞の分化過程にはp38やUnfolded Protein Response(UPR)などのストレスシグナルの関与が示唆されている。これらのストレスシグナルはMyoD発現の上昇等がみられる分化前期と筋線維の形成が起こる分化後期で異なる役割を持つと考えられるが、従来の分化誘導法ではこれらの区別が難しかった。本研究では、筋芽細胞の分化段階を可能な限り厳密にコントロールすることで、各分化過程におけるストレスシグナルの役割を個別に明らかにすることを目的とした。 当該年度ではヒト骨格筋筋芽細胞を用いて段階的な分化誘導の方法について検討を行った。はじめに筋芽細胞で筋管形成に対するFGF-2とTGF-β1の効果を確認したところ、FGF-2とTGF-β1は濃度依存的かつ協同的に筋芽細胞のelongationおよび筋管形成を抑制した。また、筋管形成を誘導する前の増殖培養の段階でのTGF-β1の添加は筋管形成を遅延した。一方、フローサイトメトリーによるポピュレーション解析の結果、筋管形成前の細胞についても、増殖期(proliferating)と分化期(differentiated)の2つの段階が存在することが示唆された。すなわち、筋芽細胞には少なくとも増殖期、分化期、筋管形成期の3つ段階があると考えられる。さらに、増殖期と分化期の細胞比率はFGF-2やTGF-β1を含む様々な因子によって変化することも分かった。 これらの結果は増殖因子の添加等により分化段階を制御できる可能性を示すものであり、どのような因子がどの分化段階を制御しているか詳細に検討することで、骨格筋の再生過程や廃用性委縮などの筋疾患の病態の解明に繋がることが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では当該年度はヒト骨格筋筋芽細胞を用いた段階的分化誘導法を確立し、各段階での転写因子の発現量の時間的変化と細胞形態・筋線維形成との関係について調べる計画であった。しかし、最終的な筋管形成率が低かったため、購入したロットについてフローサイトメトリーによりポピュレーション解析を行ったところ継代培養後のデスミン陽性率がどのロットも低かった。そこで、さらなる解析のためにはデスミン陽性率の高い筋芽細胞を得る必要があると考え、継代培養の条件を検討した。その結果、リコンビナントのラミニンフラグメントであるiMatrix-221を低濃度でコーティングすることでデスミン陽性率が向上することが分かった。また、既報のBrefeldin Aによる純化手法により、95%以上のデスミン陽性率の細胞群を得ることができた。 純度を向上させるための培養条件検討を行った結果、当初予定していた解析の内qPCRなどが行えていないが、FGF-2とTGF-β1の組み合わせによる筋管形成の抑制は予想通りの結果を得ることができた。一方で、培養条件検討の過程で培養液中への高分子の添加によって細胞接着を制御する新たな手法を発見した。また、筋芽細胞のポピュレーション解析の過程で増殖期の筋芽細胞と分化した筋芽細胞を識別できる可能性のあるマーカーを発見した。これらのことは、計画にはなかったものの筋芽細胞の分化制御を理解する上で重要な発見であり、総合して研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では単一の細胞集団を段階的に分化誘導する手法を確立することを前提としていたが、フローサイトメトリーによるポピュレーション解析が可能であれば必ずしも単一の細胞手段を単離せずとも各細胞集団間の遷移を定量化することができる可能性がある。そこで、単一の細胞集団を用いた段階的分化誘導が難しいようであればポピュレーション解析による分化状態の解析を中心に研究を行う。 また、今後は当初計画通り、ストレスシグナルであるp38とUPRが各分化段階にどのように関わるかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス蔓延の影響により、使用予定であった試薬等の納期が遅延し、年度内に間に合わなかったため、次年度に購入することにした。
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