骨格筋の再生・修復に関わる筋芽細胞の分化過程にはp38やUnfolded Protein Response(UPR)などのストレスシグナルの関与が示唆されている。これらのストレスシグナルはMyoD発現の上昇等がみられる分化前期と筋線維(筋管)の形成が起こる分化後期で異なる役割を持つと考えられるが、従来の分化誘導法ではこれらの区別が難しかった。本研究では、筋芽細胞の分化段階を可能な限り厳密にコントロールすることで、各分化過程におけるストレスシグナルの役割を個別に明らかにすることを目的とした。 これまでにフローサイトメトリーにより筋管形成前の筋芽細胞が増殖型から分化型にシフトする段階を解析する手法を確立し、TGF-βシグナルとERK1/2シグナルは分化抑制に、PI3K-Aktシグナルは分化促進に寄与することを確認した。ストレスを惹起する過酸化水素やBrefeldin Aの添加は分化型の割合をわずかに低下させた。一方、p38シグナルのインヒビターであるBIRB796やUPRを軽減するTUDCAの添加はストレス下・非ストレス下で大きな変化を生じなかった。 本年度では、分化の後期である筋管形成においてこれらのストレスシグナルの影響を調べた。筋管形成の速度と程度を評価する無血清培養系の構築を行った。磁気ビーズを用いてCD56陽性細胞群を分取し、ストレスシグナルが筋管形成に与える影響を評価した。過酸化水素、Brefeldin Aの添加はDesmin陽性細胞中のMyosin 4陽性細胞率をやや低下させる傾向にあったものの、BIRB796やTUDCAにより緩和される傾向は見られなかった。 これらの結果から筋芽細胞の分化過程において、筋管形成前および筋管形成の過程、双方においてp38やUPRは主要な制御因子ではなく、他のシグナル伝達を調整する修飾因子であると推定される。
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