研究課題/領域番号 |
20K18016
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
遠藤 健 北海道大学, 大学病院, 助教 (50849148)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 末梢神経損傷 / 線維芽細胞 / 神経突起伸長 |
研究実績の概要 |
末梢神経の再生は、複数の細胞種の高度な連携を伴うが、神経組織内に存在する線維芽細胞(Fibroblast: Fb)の役割はいまだ不明なままである。特に、末梢神経の最外層に位置して境界を形成するものと、神経組織内部で軸索に近接するものでは、神経が再生する過程で果たす役割は異なると考える。そこで、本研究では、末梢神経を構成するFbにも領域に基づく多様性があり、軸索再生に至適なFbがあるという仮説を検証する。まず、局在が異なるFbの神経突起伸張効果を検討した。成体ラット坐骨神経の神経上膜(epineurium: Epn-Fb)、実質部(parenchyma: Par-Fb)、および皮膚由来Fb(Fb-Skn)を用意した。神経細胞は成体ラット後根神経節から感覚神経細胞を単離し、各Fb上での共培養(接触共培養)と半透膜インサートを使用したFbと接触しない共培養(非接触培養)の2種類を実施し、伸長神経細胞の割合と最長神経突起長を定量した。接触の有無に関わらず、神経上膜由来が伸長細胞割合と最長神経突起長の両方に優れていた。非接触共培養の場合、接触共培養と比較して、伸長細胞割合と最長神経突起長は、それぞれ約44%、約49%減弱した。神経組織特異的Fbは軸索再生効果に優れ、中でもFb-Epnが最も優れていること、そしてその効果には液性因子と接着因子の両方が関与することが示唆された。また、この3種の細胞のRNAsequenceを実施し、3種の細胞の分子的特徴が、それぞれ大きく異なることも同定した。これらのことは、今まで注目されることが無かったFb-Epnの末梢神経修復機構への関与と、Fb-Epnは軸索再生を標的とする細胞治療材料になりうる可能性、局在の異なるFbが機能的、分子的に異なることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、末梢神経を構成する線維芽細胞にも領域に基づく多様性があり、軸索再生に至適な線維芽細胞があるという仮説を検証する。局在の異なる、神経上膜(epineurium: Epn)、神経実質部(parenchyma: Pa)、皮膚(Skn)から、線維芽細胞(Fibroblast: Fb)を高純度に採取できるようになった。それぞれのFbを成体ラット後根神経節神経細胞と共培養すると、神経突起伸長効果は、神経上膜由来線維芽細胞(Fb-Epn)、神経実質部由来線維芽細胞(Fb- Pa)、皮膚由来線維芽細胞(Fb-Skn)の順であり、神経組織由来のFbが非神経組織由来のFbよりも、神経突起伸長効果に優れ、しかも、Epn由来のものが一番効果に優れることが判明した。また、液性因子と接着因子の両方が、同等に関与することが判明した。各細胞のRNAsequenceにより、分子的特徴も、3種類で大きく異なりことが判明し、同じFbであっても、局在が異なることで、機能的、分子的に大きく異なることが明らかになった。ここまでは、計画通りに進んでおり、今後は、末梢神経の修復過程において、Fb-Epn やFb- Paが果たす役割を明らかにするために、時空間的分布や移植実験を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、末梢神経を構成する線維芽細胞にも領域に基づく多様性があり、軸索再生に至適な線維芽細胞があるという仮説を検証する。令和4年度は、末梢神経損傷部の修復機序における線維芽細胞の役割を明らかにするために、ラット坐骨神経の切断損傷部の線維芽細胞、周皮細胞、血管内皮細胞、シュワン細胞の時空間的変化と、PDGFα、PDGFβ、αSMA、一型コラーゲンなどの発現を明らかにして、損傷部の修復に関与する線維芽細胞の種類と動態を確定する。続いて、RNAseqの結果に基づいた線維芽細胞の候補分子を、機能阻害抗体、低分子化合物、刺激タンパク質などを投与して、標的分子の介入による、損傷部の修復機構への影響を検討する。また、特定の細胞集団をFACSで集積し、損傷部への細胞移植や、in vitro評価などの手法を用いて、損傷部に集積する線維芽細胞の分子的、機能的特徴を明らかにする。以上より、末梢神経損傷部の修復機構における、局在の異なる線維芽細胞の役割が明らかになる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は順調に進行しているが、コロナ禍の影響で、動物実験を想定よりも実施できなかったことで、動物購入費、動物飼育費用、関連試薬の支出が想定よりもなかった。しかし、次年度はその分多くの動物実験を実施予定であり、特段に使用計画の変更は必要ないと予定している。
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