研究実績の概要 |
本研究の目的はモーションキャプチャーにより静止立位での体幹の動揺を実測して、Duboussetらがヒトの立位保持を逆振り子に例えて提唱したcone of economy(COE)の3次元的動作解析を行い、新たな立位動揺指標としての有用性を明らかにすることである。昨年までに、COEが重心動揺計などで得られるcenter of pressure(COP)の偏位測定による従来型のパラメータと相関することを明らかにした。 成人脊柱変形に対し5椎以上にわたる初回固定手術を受ける患者で、立位保持困難のため計測ができなかった症例を除き、22名の術前後データを健常者5名と共に収集した。C7棘突起直上に設置した体表面反射マーカーの動きを静止立位で30秒間ずつ3回、赤外線カメラで計測し、術後6か月に同様の計測を繰り返した。水平面における中心からの偏位の平均実効値面積をCOEの底面積と捉えて記録した。 健常者平均より1標準偏差以上逸脱していた13例では、COEサイズはX線パラメータとは相関がなかったが、SF-12 PCSと強い相関が見られ(rho=0.833,p=0.005)、腰痛NRSとも相関の傾向が見られた(rho=0.611,p=0.06)。術後6か月の再計測では術前と比較してCOEサイズが有意に縮小した(7.0±4.0vs3.2±1.7cm2,p=0.04)。一方、術前にCOEサイズが健常者同様に維持されていた9例では術後にも有意な変化は見られなかった(1.8±0.6vs2.1±1.3cm2,p=0.58)。 成人脊柱変形患者のうち術前からバランスの代償機構が破綻しCOEサイズが増大している群では、バランスは術前QOLに影響し、術後にCOEが縮小したことから、評価尺度として有用である。一方、術前からバランスの代償が可能な症例では術後変化を捉えることは困難で、長範囲固定による悪影響が考えられる。
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