関節軟骨欠損への間葉系幹細胞の局所移植治療において、幹細胞の軟骨分化能と軟骨治療効果との関連性が期待される一方で、幹細胞を未分化な状態で移植しても分化しないとする報告が増えてきており、幹細胞の軟骨細胞への分化能の意義を見直す必要がある。本研究では、in vitroで細胞が持つ分化能力と生体内移植後のin vivoでの組織修復能の関連を調査し、幹細胞治療の真の有用性について検証を行う。 昨年度までの試験から、in vitroでのTGFbへの反応性がin vivoでの生体内軟骨分化能の指標となることが示唆された。さらに、ヒト滑膜組織由来幹細胞では由来患者によってTGFbへの反応性の違いが確認された。生体組織由来の細胞を培養した時に、増殖能を有する細胞起源は複数挙げられ、繊維組織、血管、脂肪組織の構成比によって得られる細胞集団の特性に違いがでると考えられた。そこでヒト滑膜組織の60例の網羅的遺伝子発現解析 (bulkRNAseq)および2例のシングルセル遺伝子発現解析(scRNAseq)を実施し、滑膜組織のプロファイリングを実施した。bulkRNAseqデータの非負値行列因子分解により、ヒト滑膜組織は免疫細胞/脂肪組織/筋肉線維芽細胞/滑膜線維細胞1/滑膜線維細胞2の5つの成分に分解され、滑膜線維細胞1と滑膜線維細胞2はそれぞれ滑膜表層、滑膜深層の線維細胞の特徴を有していた。さらにscRNAseqから滑膜組織の非免疫細胞が幾つかの集団に分かれること、滑膜組織内に複数の線維芽細胞が存在することが明らかにできた。
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