研究課題
癌細胞の転移は多段階の過程を経て成立しているが、その全ての過程に細胞の形状変化、柔軟性が関与していると考えられる。柔軟性の高い細胞は転移を形成しやすく、柔軟性の低い細胞は転移を形成しにくいと仮定し、柔軟性を細胞の剛性(硬さ)と捉え、細胞表面を硬化させる薬物を探索し、抗転移抑制薬としての可能性を探るべく、本研究を行った。転移の発生時期は不明であるため、病巣が切除され、体内から腫瘍が消失するまでの期間の投与が必要である。抗がん剤との併用が可能な薬物が理想的であり、探索の対象を抗癌剤以外の一般薬とした。まず、癌細胞のアクチン濃度を上昇させる薬物をスクリーニングし、厳選した薬物の細胞の剛性への変化を原子間力顕微鏡(AFM)にて測定した。マウス骨肉腫細胞LM8に対し、actin intensityを上昇させた薬剤A、B、C、D、E、Fのうち、実際にAFMにて細胞剛性を上昇させたのは、A、Fが顕著であり、その他は、わずかな上昇に止まった。Fを中心に、細胞増殖能、浸潤能、wound healing、接着能評価をおこなった。A、Fはcontrolとほぼ変化を認めなかった。Cは細胞増殖抑制、wound healingの抑制を認めた。A、Fは、細胞の剛性の増加が主な作用であり、それ以外の、細胞増殖能、浸潤能、wound healing、接着能への作用を有しない薬剤であることがわかった。また、アクチン濃度の結果は、細胞剛性の結果とほぼ一致していた。アクチン濃度の評価は、細胞剛性の評価をする対象を絞るための、良いスクリーニング検査になり得ると考えられた。次年度は、細胞剛性の増加作用を持つA、Fの、転移抑制効果を評価する予定である。マウス骨肉腫細胞LM8をマウス皮下に移植してマウスモデルを作成し、in vivoでの転移抑制効果の検討を行っていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
マウス骨肉腫細胞LM8のアクチン濃度を上昇させ、細胞剛性を上昇させる薬剤が比較的早期に見つかったため、その後の検討がsmoothであった。
マウス骨肉腫細胞の増殖に影響を与えずに、細胞剛性を上昇させる薬剤として、A、Fを同定した。LM8マウス皮下移植モデルを作成し、A、Fを投与することで、肺転移抑制効果の検討を行う。LM8マウス皮下移植モデルは、皮下に移植するだけで肺に転移をきたす、非常にユニークな動物モデルであり、実際の骨肉腫転移形態にもっとも近いモデルと考えられる。A、Fは、細胞増殖に変化を与えないため、増殖抑制による肺転移抑制効果は認めない。A、Fの転移抑制効果を認めた場合、以下の研究的意義が考えられる。1)細胞剛性を基準とした転移抑制剤の創薬が可能であること、2)細胞の増殖経路とは異なった機序で転移抑制が可能であること、3)抗がん剤ではない一般薬の中に細胞剛性を上昇させうる薬剤が多数存在している可能性、4)抗がん剤とは異なり、転移のみを抑制する治療が可能であること、など、非常に重要な意義を有している研究である。
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