研究課題/領域番号 |
20K18066
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
柳原 裕太 愛媛大学, 学術支援センター, 技術員 (20865703)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Dnmt1 / 軟骨分化 / 成長軟骨 |
研究実績の概要 |
近年、加齢に伴う疾患の多くは、DNAの塩基配列の変化を伴わない後天的な遺伝子発現の制御機構である“エピゲノム” の異常が関わることが分かっている。そこで、我々はエピゲノムの一つであるDNAのメチル化に注目し、骨関節疾患との関係解明に取り組んでいる。本研究ではDNAのメチル化維持機構を担うUhrf1及びDnmt1と骨・関節の恒常性維持のメカニズムを明らかにし、新規治療標的分子を同定することを目的としている。 当該年度においてはDNAメチル化酵素であるDnmt1を四肢の間葉系幹細胞特異的に欠損させたマウス(Dnmt1 cKOマウス)を作出し、種々の実験を遂行した。 Dnmt1 cKOマウスはUhrf1を同様に欠損させたマウスよりも非常に顕著な四肢の短縮を示し、その骨組織像は1週齢において増殖軟骨層の菲薄化、肥大軟骨層の増大及び石灰化の促進を呈した。また、増殖軟骨層におけるBrdUの取り込みがDnmt1 cKOマウスにおいて有意に低値を示し、増殖軟骨細胞の増殖能低下が示唆された。 さらに、Dnmt1欠損によるDNAのメチル化減少に伴う遺伝子発現の挙動を網羅的に解析すべく、膝関節軟骨由来の初代軟骨細胞を使用し、RNA-seq及びMBD-seqを実施した。その結果、メチル化DNAの低下に伴い遺伝子発現が増加している可能性のある、いくつかの遺伝子を同定した。これらの遺伝子群は石灰化や細胞増殖に関連する遺伝子を多く含んでおり、Dnmt1 cKOマウスの表現系と一致する結果となった。 このことから、Dnmt1は増殖軟骨細胞の分裂および肥大軟骨細胞の石灰化を制御することで、四肢の発達を正常に維持していることが示唆される。現在、これらの遺伝子群のうちDnmt1 cKOマウスの表現系を形成する主要因子を特定すべく、さらなる解析に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の仮説とは異なり、骨代謝関連細胞においてUhrf1欠損による顕著な表現系は認められなかった。 しかしながら、現在、Dnmt1 cKOマウスの表現型解析および初代軟骨細胞におけるRNA-Seq及びMBD-Seqのゲノムワイドデータの統合解析が実施できており、目的である骨・関節疾患の新規治療標的分子の同定に向け、本研究は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにUhrf1を骨芽細胞特異的Creマウス(Osx-Cre, Col1-Cre, Ocn-Cre)及び破骨細胞特異的Creマウスと交配したが骨密度等に顕著な差は認められなかった。先行研究において使用したPrx1-Creマウスは軟骨細胞および骨芽細胞両者の前駆細胞にCreを発現させることが知られている。以上のことから、Prx1-Creマウスとの交配により確認されたUhrf1欠損に伴う表現系は、骨芽細胞ではなく、軟骨細胞分化においてUhrf1が多大なる役割を担っている影響であったと考えられた。 しかしながら、軟骨細胞分化への影響がUhrf1特異的なものか、Dnmt1を介した事象であるのか、明らかではない。そこで、軟骨細胞分化におけるUhrf1及びDnmt1の役割を明確にするため、Prx1-CreマウスとDnmt1 floxマウスを交配させることで軟骨細胞におけるDnmt1の機能を解析することとした。 今後は、これまでに得られたRNA-Seq及びMBD-Seqのゲノムワイドデータの統合解析により、Dnmt1 cKOマウスの表現系を形成する主要因子候補を絞り込む。さらにDnmt1 cKOマウスの初代軟骨細胞において候補因子の遺伝子発現を抑制することで細胞増殖及び分化能の回復に寄与するか評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
概ね予定通り使用でき、必要以上に経費をかけずにすんだ。 次年度分と合わせて、今後の研究進展のため合理的に使用する予定である。
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