運動後筋疲労に対してスポーツ現場で様々な対症療法が行われている。運動直後にはアイシング、冷却が行われているがエネルギー代謝の観点からはむしろ温熱の方が有効であるという報告も多く温度介入はいまだ根拠が乏しい。筋疲労の発生には複数の分子機序が関与するが、興奮収縮連関の過程において必要なエネル ギー (特にアデノシン三リン酸:ATP)の需要を賄えないことが機序の主要因として注目されている。ATPの主要な供給源であるミトコンドリアの機能が大きな役割 を担っているが、ミトコンドリアは絶えず融合 (fusion)、分裂 (fission)、オートファジーにより品質管理されている。運動によりfissionを制御するDRP1の Ser616リン酸化が活性化することが知られている。Wistar ratに10-20m/min の速度で30分トレッドミル走行をさせた後30分の温度介入(室温、温熱42度水槽、冷却16度水槽に下腿を暴露)を行い、採取した筋サンプルを用いてWestern blotを行った。DRP1-Ser616のリン酸化レベルは、運動直後に比べ温度介入直後では、冷却群で増加し、温熱群、室温群でむしろ低下した。また安静時に温度介 入30分を同様におこなう実験を追加したが、冷却、温熱ともにDRP1-Ser616のリン酸化レベルは増加しなかった。以上から冷却介入は運動後のDRP1のSer616リン 酸化の状態に影響を与えていることを確認した。運動後温熱介入による骨格筋張力の変化を調査するため、30分トレッドミル走行をさせた後30分の温度介入を行うプロトコルを2日に1回、2週間施行した。2週間後の下腿底屈筋の筋持久力を評価したところ、温熱群、冷却群、室温群において有意差を認めなかった。DRP1によるミトコンドリアの形態変化が生じているかを評価するため2週間後の下腿底屈筋からヒラメ筋を採取し電子顕微鏡にてミトコンドリアの形態変化を確認したが、温熱群、冷却群、室温群において明らかな形態変化を認めなかった。
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