研究課題/領域番号 |
20K18087
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
新井 隆之 千葉大学, 医学部附属病院, 助教 (40793055)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | microRNA / miR-499a-5p / 前立腺癌 / 去勢抵抗性前立腺癌 / NCAPG |
研究実績の概要 |
近年、前立腺癌の治療において、新規治療薬剤開発が進んでいるものの、ホルモン治療に抵抗性を示す去勢抵抗性前立腺癌に至り、遠隔転移を伴う症例への効果は限定的であり、その予後は極めて不良である。我々はこれまで、未治療前立腺癌および去勢抵抗性前立腺癌臨床検体を用いて、マイクロRNA発現プロファイルを作成し、それに基づき新たな分子ネットワークの探索を継続してきた。我々の作成した前立腺癌マイクロRNA発現プロファイルおよび、公共の前立腺癌検体における遺伝子発現のプロファイルを用いて、非癌、未治療前立腺癌、去勢抵抗性前立腺癌と段階的に発現の変化していたmiR-499a-5pに着目した。この制御する有力な癌促進遺伝子として、NCAPGおよびCDC6を同定した。これらは細胞周期に深く関与する遺伝子であり、miR-499a-5pによるこれらの遺伝子の直接制御と、miR-499a-5pの核酸導入による前立腺癌細胞株における癌抑制的機能を実証した。NCAPGは、miR-499a-5pだけなく、既報のmiR-99a-3p、miR-145-3pの制御も受ける前立腺癌促進遺伝子である。これは、我々が継続してきた研究の中で、去勢抵抗性前立腺癌において、複数のマイクロRNAによって制御を受けている、重要な癌分子ネットワークであり、本疾患の有力な新規治療標的の発見につながる、有効な情報を提供することができると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
公共のデータベースおよび我々の作成した前立腺癌マイクロRNA発現プロファイルを用いて、非癌、未治療前立腺癌、去勢抵抗性前立腺癌と段階的に発現低下しているmiR-499a-5pを導き出した。miR-499a-5pの前立腺癌細胞株における癌抑制機能を証明し、それが直接制御する有力な癌促進遺伝子候補としてNCAPGとCDC6を同定した。NCAPGについては我々がすでに報告している他のマイクロRNA(miR-145-3p、miR-99a-3p)も直接的に発現制御しており、複数の癌抑制型マイクロRNAによって制御されるこの遺伝子の重要性が推察された。 現在、NCAPGやCDC6の臨床検体における発現を確認中であり、今後はその癌促進的機能を含め、解析を継続していく予定である。 このように、本申請における研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、前立腺癌の去勢抵抗性獲得に関与する分子経路を、マイクロRNAを起点として明らかにする。その中で有力な分子について、その癌促進的な役割や、臨床検体における発現を確認する。同定した分子経路を遮断する事により、前立腺癌治療において、癌細胞の増殖や転移を抑制し、治療抵抗性獲得を克服する戦略を考案する。以下の研究項目について、順次明らかにする計画で予定ある。 (1)「去勢抵抗性前立腺癌マイクロRNA発現プロファイル」に基づき、前立腺癌組織で発現 が抑制されているマイクロRNAについて機能解析を施行し、治療抵抗性前立腺癌・癌抑制型マイクロRNAを探索する。(2)「癌抑制型マイクロRNA」が制御する機能性RNAネットワークの探索により、去勢抵抗性前立腺癌で活性化している分子シグナルを見出す。(3) 活性化経路に関与する分子に対して、The Cancer Genome Atlas (TCGA)データベースを用いて、前立腺癌の臨床的な関与があるか、検討する。(4) 去勢抵抗性前立腺癌において活性化している分子シグナルを遮断する戦略を考える。まずは既存の薬剤で、候補となる分子を阻害するような小分子阻害剤がないかを探索し、その効果をin vitro/in vivoで検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響もあり、予定していた学会参加などに伴う旅費がかからなかった。 また、物品についてもすでに購入分のストックで対応可能であったことから、本年度の物品費については大幅に削減となった。 次年度以降、物品費を含め、計画に沿う形で使用していく予定である。
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