研究課題/領域番号 |
20K18090
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
波多野 浩士 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (60762234)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 前立腺癌 / 放射線治療 / CRISPR / スクリーニング |
研究実績の概要 |
放射線治療は前立腺癌に対する有効な治療法であり、近年骨転移を来した去勢抵抗性前立腺癌に対するRI内用療法が注目されている。しかし、RI内用療法単独の治療効果は限定的で治療後の再発が問題となる。本研究では放射線増感ターゲット遺伝子を前立腺癌特異的に抑制することで、正常組織への副作用を軽減しつつ癌への放射線治療効果を高める新規治療法の開発を目的とする。はじめにCRISPR/cas9システムを用いた網羅的ノックアウト・スクリーニングにより放射線増感ターゲット遺伝子の探索を行う。複数の前立腺癌細胞株によるスクリーニングおよび検証実験を行い、トップランクの標的遺伝子を同定する。さらに、前立腺癌に高発現するProstate-specific membrane antigen (PSMA)を標的としたsiRNAデリバリー技術との融合を行い、画期的新薬(ファースト・イン・クラス)の開発を目指す。当該年度において申請者らは、3種の前立腺癌細胞株(PC3, 22RV1, LNCaP)を用いて、CRISPR/Cas9システムによる網羅的ノックアウト・スクリーニングを行い、放射線増感ターゲット遺伝子の探索を行った。3種類の前立腺癌細胞株において、共通して放射線増感効果を示すトップランクの候補遺伝子、および共通して放射線耐性効果を示す候補遺伝子の同定を行った。さらに、放射線増感効果を示す各候補遺伝子をCRISPRシステムによりノックアウトした前立腺癌細胞株の樹立に取り組んでいる。今後は、樹立した遺伝子ノックアウト前立腺癌細胞株を用いて放射線感受性に対する検証実験を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID19による緊急事態宣言の影響により、2020年6月より当該年度の研究を開始した。当該年度において、申請者らは、CRISPR/Cas9システムを用いた網羅的ノックアウト・スクリーニングにより放射線増感ターゲット遺伝子の探索を行った。3種の前立腺癌細胞株(PC3, 22RV1, LNCaP)にレンチウイルスベクターを用いてCas9を導入し、Cas9安定発現前立腺細胞株を樹立した。Cas9安定発現前立腺癌細胞株に、レンチウイルスベクターを用いて18,010種類の遺伝子を標的とする計90,709種類のsgRNAを含んだCRISPRライブラリーを導入した。多重感染度を低く設定して、1つの細胞につき1つの遺伝子がノックアウトされた、ゲノムワイド変異細胞ライブラリーを樹立した。この細胞ライブラリーを放射線治療群(4Gy, 6Gy)および無治療群にわけて11日間培養した。各細胞群より抽出したゲノムDNAに含まれるsgRNA配列を次世代シークエンサーで解析し、各sgRNAの存在数をコントロール細胞群と比較することで、ノックアウトされると放射線治療への増感効果を示すターゲット遺伝子の候補をえた。3種類の前立腺癌細胞株において、CRISPR/Cas9スクリーニングを行い、共通して放射線増感効果を示すトップランクの候補遺伝子群、および共通して放射線耐性効果を示す遺伝子群を同定した。現在、Ishibashi A らが考案した方法を用いて(Sci Rep. 2020 Dec 18;10(1):22345.)、放射線増感効果を示す各候補遺伝子をCRISPRシステムによりノックアウトした前立腺癌細胞株の樹立に取り組んでいる。今後は、樹立した遺伝子ノックアウト前立腺癌細胞株を用いて放射線感受性に対する検証実験を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
CRISPR/Cas9システムを用いた網羅的ノックアウト・スクリーニングにより同定した、トップランクの放射線増感ターゲット候補遺伝子に関して、Ishibashi A らの方法を用いて(Sci Rep. 2020 Dec 18;10(1):22345.)、各遺伝子をCRISPRシステムによりノックアウトした前立腺癌細胞株の樹立を行う。樹立した遺伝子ノックアウト前立腺癌細胞株を放射線治療群(4Gy, 6Gy)および無治療群にわけて11日間培養して、Clonogenic assayにより放射線感受性に関する検証実験を行う。さらに、放射線感受性遺伝子をノックアウトした前立腺癌細胞に放射線を照射した際のDNA修復経路の働きに関して、γH2AX免疫染色およびComet assayにより解析を行う。申請者らは、前立腺癌に高発現するPSMAを標的として、前立腺癌選択的にsiRNAを導入するシステムの開発をすすめている。今後は、マウス前立腺腫瘍モデルを用いて、PSMAを標的として放射線感受性遺伝子に対するsiRNAを前立腺癌特異的に導入し、放射線治療効果を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めていくうえで必要に応じて研究費を執行したため、当初の見込み額と執行金額が異なった。
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