本研究目的はPHD阻害薬による腫瘍内マクロファージ (Mf) のHIF活性化が腫瘍増大を抑制する機序について明らかにすることである。また、本研究のように薬剤で全身性にHIF発現を上昇させ、包括的にがん細胞と免疫細胞の競合を検討した報告はほとんどない。これらのことを明らかにすることで既存の治療薬との併用など新たな治療選択の作るとともに、臨床でのがん患者へのPHD阻害薬投与の安全性の向上に繋がるものと考える。昨年度の結果から、PHD阻害薬投与により腫瘍抑制性に機能するマクロファージ集団の遺伝子解析を行い、数種の候補となる遺伝子を見出した。それらの遺伝子発現を骨髄由来マクロファージ、および腫瘍から単離した分画にて検証を行った。その結果、PHD阻害薬投与により発現上昇する遺伝子は生体内腫瘍から単離したマクロファージ分画と骨髄由来マクロファージでは発現量や反応性が異なっているものが認められた。これらのことから生体内マクロファージおよび骨髄由来マクロファージの両者で同様の発現変化が認められる遺伝子を仔補遺伝子として絞り込みを行った。これらの検討よりPHD阻害薬処置により発現上昇する遺伝子の中から、マクロファージにおいて腫瘍抑制性に働くと考えられる遺伝子を同定した。 同定された遺伝子のリコンビナントタンパク質を担癌マウスモデルに投与し、腫瘍増大の抑制が生じるか検討を行った。その結果、PHD阻害薬と同様に腫瘍増大の抑制が生じることが認められた。 これらの結果よりPHD阻害薬投与による腫瘍内マクロファージのHIFの活性化が、腫瘍増大を抑制する機序の一端が明らかになったと考える。
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