近畿大学医学部泌尿器科学教室は、これまでプレクリニカルモデルとして前立腺特異的PTENノックアウトマウスを用いて前立腺癌の新規治療法やバイオマーカー開発の研究を行ってきた。ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤が抗腫瘍効果以外に制御性T細胞などの免疫細胞へ作用することが示され、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の増強効果を期待した複合免疫療法の臨床試験が始まりつつある。また、HDAC阻害剤はTP53変異型で野生型よりも強い細胞増殖抑制作用を示すことが分かっており、比較的高頻度でTP53異常を認める前立腺癌に対する新たな治療選択肢となりうると思われる。そこで本研究では、前立腺癌に対し、HDAC阻害剤は抗腫瘍効果や免疫調節作用を示し、ICIの効果を増強させるのか、さらに、TP53の遺伝子型により差があるのかを評価した。 前立腺特異的PTENノックアウトマウス、PTENノックアウト/TP53機能獲得変異マウスから樹立したマウス細胞株を、それぞれTP53野生型、変異型細胞株として用い、HDAC阻害剤のin vitroでの評価を行った。また、前立腺特異的PTENノックアウトマウスにHDAC阻害剤を単独投与し、前立腺における免疫応答因子の発現をリアルタイムPCRにて評価、脾臓や血液のリンパ球サブセットをフローサイトメトリーにて検討した。細胞株でTP53変異の有無がHDAC阻害剤の抗腫瘍効果に大きく影響しなかったため、PTENノックアウトマウス細胞株を皮下移植したマウスモデルを用いて、HDAC阻害剤vorinostatと抗PD-1抗体の併用療法の効果を検討したところ、HDAC阻害剤、抗PD-1抗体単独療法より併用療法群でもっとも強い腫瘍増殖抑制効果が認められた。
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