研究課題
2016年の伊勢志摩サミットでは、薬剤耐性微生物が世界経済に深刻な影響を与えている可能性があると認識され、各国が協調して取り組むことがコミットされた。それに先駆けて日本政府からは薬剤耐性アクションプランが発表され、疾患の予防や抗菌薬の適正使用がますます重要になっている。膀胱炎は一般的な感染性疾患であり、罹患後一年以内にその3分の1が再発を経験すると報告され、繰り返し抗菌薬治療することで病原菌の多剤耐性化のため難治性となる。反復性/難治性膀胱炎の病態として、乳酸菌を中心とした膣の常在菌によるバリアが関与しているといわれており、特に閉経後の女性や性的アクティビティが高い女性はバリアの喪失や慢性炎症による腸内細菌の膣への定着、バイオフィルムの形成によって、膣内の正常細菌叢やその代謝物を含む環境(マイクロバイオーム)が破綻し、膣が腸内細菌のリザーバーとなって多剤耐性菌を供給することが原因とされている。このような問題への一つの解決策として、病原性細菌の病原因子の産生のみを特異的に抑制するクオラムセンシング(Quorum Sensing: QS)阻害剤の開発が、今世紀における感染症治療のブレイクスルーとして世界的に注目されている。我々はこれまでの基礎/臨床研究において、膣に常在する乳酸菌に注目し、それが産生するバイオサーファクタントがQS阻害剤として機能することを見出している。また、L. Crispatus上清に含まれるいくつかのペプチド(特にAggregation-promoting factor)が抗菌活性を持つと予測され、乳酸や過酸化水素に加え、L. crispatusのもう一つの抗菌機構である可能性が示された。
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