研究実績の概要 |
アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドは発がん物質であると報告されており、食道がんや頭頸部がん発症との関連が示されているが、膀胱がん発症とアセトアルデヒド曝露の関連は明らかではない。アルコール、アセトアルデヒドの代謝に重要な役割を示す、アルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)とアルコール脱水素酵素1B (ADH1B)に着目し、それらの遺伝子多型と膀胱がんの関連を症例対照研究で検証した。 愛知県がんセンター病院を受診した患者の血液検体から抽出したDNAを用いて、リアルタイムPCRにより、ALDH2遺伝子多型であるrs671(Glu/Lys), ADH1B遺伝子多型であるrs1229984(Arg/His)を測定した。愛知県がんセンター病院を2001年~2005年に受診した患者のデータと、2006年~2013年に受診した患者のデータを統合した。 膀胱がん患者125名、年齢と性別をマッチングさせた対照患者1250名の飲酒、喫煙習慣の情報を利用して、条件付きロジスティック回帰分析で解析した。喫煙・飲酒を調整したところ、rs671 Glu/Lysの膀胱がん罹患に関するオッズ比は2.15 (95%信頼区間:1.39-3.33)、Lys+のオッズ比は2.05 (95%信頼区間:1.33- 3.17)であった。一方、rs1229984と膀胱がんの関連は、症例数が少ないためか有意なものではなかった。 そこで、ALDH2 rs671のみ媒介分析を行うことにした。媒介分析では、rs671 Lysアレルの膀胱がんに対する直接効果オッズ比は2.17(95%信頼区間:1.41-3.35)と有意であり、アセトアルデヒドの発がん効果と考えられた。反対に、Lysアレルの保護的効果が有意であることも判明した(オッズ比0.75, 95%信頼区間:0.62-0.91)。これは、Lysアレルは、飲酒量を抑制することにより膀胱発がんに対して保護的な効果をもたらすと推察された。
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