研究課題/領域番号 |
20K18133
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
金坂 学斗 千葉大学, 医学部附属病院, 医員 (60775039)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 前立腺癌 / 去勢抵抗性前立腺癌 / 低酸素環境 / 微小環境 / 癌エピゲノム |
研究実績の概要 |
去勢環境が前立腺癌を去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)へ導く一方で、癌周囲の微小環境が去勢抵抗性獲得に寄与するか、またその環境応答そのものが変化するかどうかは充分に分かっていない。本研究では、微小環境が前立腺癌に及ぼすエピゲノム変化を軸に去勢抵抗性獲得の分子機構を同定することを目的とする。 前年度に、去勢感受性前立腺癌細胞株(LNCaP)とLNCaPより樹立した去勢抵抗性細胞株(LNCaP95)を低酸素刺激し、RNA-seq法により発現変動遺伝子が両細胞株で大きく異なることを確認した。今年度は、まずLNCaPにおいて低酸素で発現上昇する遺伝子群のうち、LNCaP95で通常酸素下で既に発現の高い遺伝子群を抽出し、ヒストン修飾のChIP-seq法(H3K4me1, H3K4me3, H3K27ac)を始めとした網羅的エピゲノムデータの統合解析を施行した。抽出した遺伝子群を制御するエンハンサー領域をヒストン修飾の状態により同定し、motif解析により候補転写因子を予測した。これら候補転写因子は細胞株においてもCRPCで発現上昇し、また臨床検体においても同様の傾向であることを確認した。 続いて、前年度に同定したCRPC細胞株における低酸素抵抗性について、RNA-seq法による細胞株間の発現プロファイルの比較を行ったところ、特定の代謝関連遺伝子群がCRPC細胞株で発現上昇していることが明らかになった。公共データベースを用いて臨床検体においても同様の発現プロファイルが検証できたため、細胞外フラックスアナライザーを用いて代謝アッセイを行った。大変興味深いことに、遺伝子発現と同様にCRPC細胞株では特定の代謝経路が亢進していることを同定した。去勢環境がこの代謝変化を起こすメカニズムや新規治療標的の可能性について今後探っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は微小環境が前立腺癌に及ぼす影響とその環境応答自体の違いについて解明することを目的としており、どちらも計画通り順調に進んでいる。前年度に行ったRNA-seq法とChIP-seq法の統合解析により、CRPCで重要な候補転写因子の抽出を行った。また、環境応答の変化は大変興味深い結果となり、他細胞株での検証や代謝実験による検証が進んでおり、去勢抵抗性獲得時の代謝プロファイルの変化という新たな着眼点を得ることができた。前年度に施行していた次世代シークエンサーを用いた網羅的データをこの新たな発見にも利用することが出来るため、さらなる分子機構の解明へと進んでいきたい。
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今後の研究の推進方策 |
細胞株で確認された代謝関連遺伝子群の発現変化について、その上流のメカニズムを探る。具体的には先に施行したヒストン修飾や転写因子のChIP-seq法とFAIRE-seq法の網羅的エピゲノムデータを利用し、発現変化に寄与する上流の分子機構をまずin silico解析から予測する。その上で、候補転写因子など上流標的の機能解析を行う。現在、各種のCas9発現細胞株の樹立も同時に行っており、CRISPR-Cas9システムを用いた機能解析も予定している。さらには、今年度同定した代謝変化が新規治療標的になり得るか代謝阻害実験を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、現地へ参加予定であった第109回日本泌尿器科学会総会をオンライン参加に切り替えたため、当該経費が浮く形となった。次年度は、追加の研究試薬や臨床検体の検証において物品費の使用が見込まれる。
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