研究実績の概要 |
去勢環境が前立腺癌を去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)へ導く一方で、癌周囲の微小環境が去勢抵抗性獲得に寄与するか、またその環境応答自体が変化するかは充分に分かっていない。本研究では、微小環境が前立腺癌に及ぼすエピゲノム変化を軸に去勢抵抗性獲得の分子機構を同定することを目的とした。 前年度までに、去勢感受性前立腺癌細胞株(LNCaP)とLNCaPより樹立した去勢抵抗性細胞株(LNCaP95)を低酸素刺激し、RNA-seq法により発現変動遺伝子が両細胞株で大きく異なることを確認した。LNCaPにおいて低酸素で発現上昇する遺伝子群のうち、LNCaP95で通常酸素下で既に発現の高い遺伝子群を抽出し、ヒストン修飾のChIP-seq法(H3K4me1, H3K4me3, H3K27ac)を始めとした網羅的エピゲノムデータの統合解析を施行した。抽出した遺伝子群を制御するエンハンサー領域をヒストン修飾の状態により同定し、motif解析により候補転写因子を予測した。これら候補転写因子は細胞株においてCRPCで発現上昇し、また臨床検体においても同様の傾向であることを確認した。 続いて、前年度までに同定したCRPC細胞株における低酸素抵抗性について、RNA-seq法による細胞株間の発現プロファイルの比較を施行したところ、特定の代謝関連遺伝子群がCRPC細胞株で発現上昇していることが明らかになった。公共データベースを用いて臨床検体においても同様の発現プロファイルが検証できたため、細胞外フラックスアナライザーによる代謝アッセイ、薬剤による代謝阻害アッセイ、CRISPR-Cas9システムを用いたノックアウトアッセイにより標的代謝の依存性を確認した。さらに網羅的エピゲノム解析により、これら特定の代謝関連遺伝子群が前立腺癌特有のエピゲノム変化を伴って発現上昇していることを同定し、新たな治療標的の可能性を検討した。
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