研究課題/領域番号 |
20K18135
|
研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
志村 寛史 山梨大学, 大学院総合研究部, 臨床助教 (70755842)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 排尿 / 蓄尿 / 大脳皮質 / 神経活動 / カルシウムイメージング / 2光子顕微鏡 / optogenetics |
研究実績の概要 |
本年度は大きく分けて2つのテーマで研究成果がある。1つは2光子顕微鏡を用いての排尿時の大脳皮質の神経活動の観察(1)、もう1つは病的モデルに対するoptogeneticsによる下部尿路障害の改善(2)である。 (1)では、前帯状皮質(Anterior cingulate cortex; ACC)と一次運動野(M1)において、神経活動を反映するカルシウムセンサーを遺伝子導入で発現させたマウスを用い、膀胱内圧測定と同時に2光子顕微鏡で排尿・蓄尿時の神経活動をin vivoで捕らえることに成功した。2光子顕微鏡は脳表から1mmの深さまでを観察可能で、細胞1つ1つを空間的に識別できる。つまり、排尿に関与しない神経細胞と、排尿に関わる役割を持つ神経細胞とを識別することができた。ACC、M1の領域全体では約6%の神経細胞が排尿に関与し、またその領域内でも関与する細胞の比較的多いhot spotを特定することができた。 さらに、カルシウムセンサーは遺伝子導入の手法の工夫により、神経細胞の投射経路や細胞の種類を限定して発現させることができ、どのような特性を持った細胞が排尿に関連するかをも同定することができた。 (2)では、酢酸を膀胱に還流させて作成した頻尿モデルマウスに、抑制性ニューロン の1つであるPVニューロンのみに興奮性のオプシンをACCのみに発現させ、光刺激を行った(optogenetics)。光刺激を行なった状態でのみ排尿の間隔が延長し、optogeneticsの時間的特異性という利点を持って、中枢神経の制御により疾患モデルを治療できることを証明した。また、過剰な光刺激では膀胱の過進展を引き起こすことが確認され、治療に適した光刺激の強度を調整することが肝要であることが示された。optogeneticsは、時間的特異性や細胞種特性に優れた刺激方法であり、新たな治療法開発の礎となり得る。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画書では2020年度では麻酔下における排尿時のACCにおける神経の活動の観察を達成目標としていた。遺伝子導入のためのウイルスの入手に困難が生じ、多少の変更はあったものの、おおよその目標を達成できている。また、当初はACCのみで予定していたが、M1でも同様の観察が可能であった。さらに、2021年度に予定していた病的モデルマウスを用いる検証とは若干異なるが、病的モデルマウスを作成しoptogeneticsで治療するという新たな試みにも着手し成果を挙げることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画書では2021年度は覚醒下、自由行動下での観察を予定していた。しかしながら、これまで覚醒状態で2光子顕微鏡での観察を施行してみた所、動きによるノイズがあることや、運動による神経活動を除外することの難易度が高いことが分かってきた。覚醒状態ならではの神経活動も重要ではあるが、まずは麻酔下での観察を徹底して行う方針で進めていく。さらに、覚醒下で2光子顕微鏡での観察を実施する際には、可能な限り他の運動を抑えるべくあらかじめ観察する状況に馴化させておく。 また、麻酔下での実験をいくつか追加する。ACCやM1の細胞を、興奮性・抑制性別に観察したり、それらの投射経路を限定しながら観察したりすることで、個々の神経がより具体的にどのような役割を担っているか検証していく。さらに、興奮性・抑制性細胞の区別を同一個体で2色で同時に観察することも予定している。2色イメージングに必要なウイルスも入手している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大により、各種学会がweb開催となった。そのため、旅費が想定よりもかからず当該年度の使用額が予定より低くなった。その分を翌年度の各種学会参加費や、物品費に使用する予定である。
|