研究課題/領域番号 |
20K18137
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐野 剛視 京都大学, 医学研究科, 助教 (60866309)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 膀胱癌 / 生体イメージング / 二光子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、膀胱癌モデルマウスにFRETバイオセンサーや蛍光タンパクを発現させ、二光子顕微鏡で生体イメージングし、膀胱癌に関する多岐にわたる現象を生体内で時空間的に観察・評価することである。 2020年度にはレンチウイルスを用いた遺伝子導入法で、ERKバイオセンサーと蛍光タンパクRFPを発現させたマウス膀胱癌株化細胞(MB49)を樹立し、それを膀胱注入することで同所性膀胱癌マウスモデルを構築し、二光子顕微鏡で膀胱を安定的に長時間観察する方法を確立した。 2021年度にはPoly-L-lysineを膀胱内に注入する前処理をしてからMB49を用いた同所性膀胱癌マウスモデルを観察したところ、ほぼ全例で膀胱中の尿路上皮が集団運動することを発見し、正常マウス膀胱では前処理を行っても、集団運動は観察されなかった。また、Dasatinibを投与すると運動は停止することが判明した。次に、Poly-L-lysineによる前処理後、MB49をマウス膀胱に注入し、同時にDasatinibの内服を行うと腫瘍の増大速度が著明に上昇した。一方で、MB49を皮下接種する異所性膀胱癌モデルでは、Dasatinibを投与しても腫瘍は増大しなかった。これらのことから、尿路上皮の集団運動を止めることが腫瘍増大に関連している可能性が高いと考えられた。 次に、癌細胞を投与し集団運動が誘導されているマウス尿を、他のマウスに注入しても集団運動が誘導されるが、そうでない尿を他のマウスに注入しても集団運動は誘導されなかった。よって、尿中に集団運動を惹起する物質が含まれることが示唆された。また、MB49の細胞培養液を注入することでも集団運動は惹起された。 以上のことから、癌細胞から分泌される何らかの物質に反応して尿路上皮が集団運動し、それが癌細胞から膀胱を守るためのバリア機能として働いていると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度には、レンチウイルスを用いた遺伝子導入法で、ERKバイオセンサーと蛍光タンパクRFPを発現させたマウス膀胱癌株化細胞(MB49)を樹立し、それを膀胱注入することで同所性膀胱癌マウスモデルを構築し、二光子顕微鏡で膀胱を安定的に長時間観察する方法を確立した。 さらに昨年度には、Poly-L-lysineを膀胱内に注入する前処理をしてからMB49を用いた同所性膀胱癌マウスモデルを観察したところ、ほぼ全例で膀胱中の尿路上皮が集団運動することを発見し、正常マウス膀胱では前処理を行っても、集団運動は観察されなかった。また、Dasatinibを投与すると運動は停止することが判明した。次に、Poly-L-lysineによる前処理後、MB49をマウス膀胱に注入し、同時にDasatinibの内服を行うと腫瘍の増大速度が著明に上昇した。一方で、MB49を皮下接種する異所性膀胱癌モデルでは、Dasatinibを投与しても腫瘍は増大しなかった。これらのことから、尿路上皮の集団運動を止めることが腫瘍増大に関連している可能性が高いと考えられた。 次に、癌細胞を投与し集団運動が誘導されているマウス尿を、他のマウスに注入しても集団運動が誘導されるが、そうでない尿を他のマウスに注入しても集団運動は誘導されなかった。よって、尿中に集団運動を惹起する物質が含まれることが示唆された。また、MB49の細胞培養液を注入することでも集団運動は惹起された。 以上のことから、癌細胞から分泌される何らかの物質に反応して尿路上皮が集団運動し、それが癌細胞から膀胱を守るためのバリア機能として働いていると考えている。 現時点で癌からの尿路上皮バリア機構の核心に迫りつつあり、さらに研究を進めることで尿路上皮の集団運動を促進する方法を見出せれば、膀胱癌の播種再発予防などにつながる可能性が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
MB49によって集団運動が誘導されている尿路上皮と、停止している尿路上皮を採取し、RNAシーケンスを行うことで、どの様な物質がどの様に尿路上皮に作用して集団運動を起こしているのかを推測する。また、尿中物質の組成を調査することで、どの様な分子が集団運動を起こしているのかを調査する。最終的には、集団運動を促進する方法を見出し、膀胱癌の播種再発の予防につなげたいと考えている。
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