研究実績の概要 |
目的:胎生期の母体栄養状態と様々な疾患との関連が報告されているが、前立腺肥大症に関する報告は少ない。我々は母体栄養状態が胎生期のエピゲノム変化を通じてBPHのトリガーとなるという仮説を立て、胎生期母体栄養状態が仔の前立腺に与える影響について検討した。 方法:自然発生高血圧ラットSHR/Izmを妊娠初期より通常食群(S群)、蛋白質制限食群(R群)、高脂肪食群(HF群)の3群に振り分け、出生後は親仔ともに通常食で管理し前立腺腹葉(VP)・尿道を摘出した。VPに対して抗サイトケラチン/ビメンチン抗体を用いて蛍光免疫染色を行い、上皮間質細胞面積を計測した。尿道に対しては抗セロトニン抗体を用いて前立腺腹葉管(VPd)におけるNE細胞比率を計測した。またVPより抽出したRNA、DNAを用いて遺伝子発現マイクロアレイ解析、realtime PCRを行い、各群で比較検討した。 結果:VPにおける上皮細胞面積はR群で有意に増加し(p=0.01)、間質細胞面積はHF群で有意に増加した(p<0.01)。VPdにおけるNE細胞比率はR群、HF群ともに増加した(p<0.01)。遺伝子発現マイクロアレイ解析におけるGO解析では、anatomical structure developmentなどの亢進を認めた。Real-time PCRでは、R, HF群ともにWnt/βcatenin経路、NFκBなどのmRNA発現亢進を認めた。R群ではXiap、HF群ではTGFβ経路、Vimentinの発現増加を認めた。以上より、慢性炎症を背景にR群はアポトーシス抑制により上皮細胞面積が、HF群では上皮間葉転換により間質細胞面積が増加している可能性が考えられた。 結語:胎生期母体栄養状態は、仔の前立腺組成に影響することが示唆された。
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