研究課題/領域番号 |
20K18151
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
井澤 水葵 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (80868761)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 膀胱癌 / CD73 / 癌微小環境 |
研究実績の概要 |
癌研究におけるCD73依存的な細胞外アデノシン代謝の役割は、現在泌尿器科のみならず、腫瘍免疫学、薬学など多岐にわたる分野で注目されているが、膀胱癌領域における報告は非常に少なく、膀胱癌治療と関連付けた研究は皆無である。本研究ではCD73の発現が現在臨床で用いられている膀胱癌治療とどのように関連するのかに着目して研究計画を立案した。近年の腫瘍免疫学の発展によって、膀胱癌はヒトの癌のなかでも遺伝子変異が多く、免疫チェックポイント阻害剤が有効であることは周知の事実となった。細胞外アデノシン代謝に関連するCD73を通して腫瘍内免疫微小環境や癌免疫応答を解明することで、BCG注入療法の治療効果予測因子を確立するのみならず現在転移・切除不応性膀胱癌の臨床で用いられている抗PD-1/PDL-1抗体の適応や最適な免疫チェックポイント阻害剤の併用についても理解が進むと考えている。 当教室で手術を行った筋層浸潤膀胱癌、非浸潤癌の計174例をデータベース化した。左記病理検体と正常粘膜生検検体をマイクロアレイ化し、Opal組織多重染色キットを用いて多重蛍光染色を行い、同システムに付随するVectra Polaris (自動病理イメージング定量システム)を用いて解析を行っている。同染色キット・高精細顕微鏡Vectra Polarisの組み合わせによって、同一標本上から最大7種の標的抗体を同時蛍光染色し、シングルセル解析できる。これは本邦最新鋭のシステムであり、解析速度および精度の飛躍的改善が期待できる。 多重蛍光染色によるシングルセル解析に伴い細胞種に特異的なマーカーとCD73発現の同時解析が可能となる。これにより腫瘍内に存在する多様な細胞種毎にCD73発現の階層化が成され、細胞種に応じたCD73発現と生命予後・治療効果の統計学的な解析が可能となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
筋層浸潤性/非浸潤性膀胱癌患者の腫瘍組織および正常部粘膜生検検体の計174例をデータベース化した。左記検体をそれぞれOpal組織多重染色キットを用いて多重蛍光染色を行い、同システムに付随するVectra Polaris (自動病理イメージング定量システム)を用いて解析を行っている。各抗体の発現度合いを数値化したのち、解析ソフトを併用してCD73強発現群、CD73弱発現群、CD73陰性群に階層化し、発現度と腫瘍の悪性度、生命予後の相関を統計学的手法を用いて明らかにする。
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今後の研究の推進方策 |
現在CD73と腫瘍アウトカムは一致した見解が無い。CD73は腫瘍細胞のみならず、腫瘍間質に存在する免疫細胞・血管内皮にユビキタスな発現が特徴的であり、本研究ではCD73発現を具体的な発現細胞に至るまで階層化し解析する点で極めて独創的である。 現時点で当教室で有する膀胱癌患者データベース174例の筋層浸潤性/非浸潤性膀胱癌患者の腫瘍組織をCD73強発現群、CD73弱発現群、CD73陰性群に階層化し、発現度と腫瘍の悪性度、生命予後の相関を統計学的手法を用いて明らかにする。我々は、研究成果がCD73発現の意義を細胞腫毎に明確化できると確信している。 また、慶應義塾大学病院は次世代統合的病理・遺伝子診断法の確立を目的として開発した癌遺伝子解析「PleSSision-Rapid」プラットフォームを保有しており、基礎研究においてもがん関連160遺伝子のターゲットシークエンスが極めて安価で達成できる。各抗体の細胞種毎の発現をデータ化完了したのち、「PleSSision-Rapid」プラットフォームを用いて遺伝子発現との関連性を明らかにすることができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
我々は膀胱癌臨床組織を活用し、最新のOpal組織多重染色キットを用いて多重蛍光染色を行っている。各抗体と染色キットの使用にあたり、追加購入を行っている。
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