当院で手術が施行された膀胱癌156例を対象とし、組織マイクロアレイを作成した。5種の細胞マーカー(CD3、CD8、Foxp3、PD1、PDL1)とCD73との共発現を、多重蛍光染色で可視化し、自動イメージング定量システムで解析した。CD73陽性率は全体の18%であった。腫瘍内全細胞のCD73陽性率は、筋層浸潤性膀胱癌と筋層非浸潤性膀胱癌の間に有意差を認めなかったが、T細胞に着目したCD73発現解析では、浸潤癌でCD73陽性率は著しく増加していた。これらの結果から、免疫細胞におけるCD73の発現量の増加は、進行のリスクと相関することが示唆された。生存解析では、単純なCD73highとlowの比較で全生存期間(OS)に差を認めなかった。一方、多重染色法による生存解析では、CD8highCD73high腫瘍群がその他の群と比較して、OSが有意に短いことが明らかになった。さらに、Foxp3highCD73high腫瘍群もその他の群と比較して、OSが有意に短かった。このことは、CD73+Treg細胞が腫瘍微小環境における免疫抑制に寄与していることを示唆する。また、CD73+T細胞が、代表的な免疫チェックポイント分子であるPD-1/PD-L1と相互作用するメカニズムについても検討した。CD73+CTLとCD73+Treg細胞はともに、腫瘍の浸潤性と異型度の上昇に伴い、PD-1を共発現する傾向が見られた。さらに、これらの細胞は、腫瘍内のPD-L1+細胞から離れた場所に位置する空間的ニッチを占めている可能性が示された。これらの知見を統合すると、病理標本のCD73染色がコンパニオン診断として治療戦略の決定に寄与する可能性がある。これらの研究結果は(膀胱癌シングルセルパソロジーによるCD73とがん免疫微小環境の統合理解)の表題でLABORATORYINVESTIGATIONに論文掲載された。
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