研究課題
生殖補助医療では、体外受精技術が飛躍的に進歩した一方で、体外受精後子宮内に胚移植した後の妊娠率は30%程度に止まっており改善に乏しい。我々は着床不全や不育症の中でも、子宮内膜発育不全症に対する治療法の開発を目指して、血流改善効果が報告されているPhosphodiesterase(PDE)5阻害薬のTadalafilに着目した。本研究では、エタノール注入による子宮内膜発育不全モデルマウスの作成法を確立し、Tadalafilの投与により子宮内膜が肥厚化するかを確認し、その理由として子宮内膜での血流改善効果と炎症性macrophageへの抗炎症作用が影響しているかを確認する。そしてその際の着床・妊娠率を検討する事で、妊娠の成立維持における知見を得ると共に、新規治療法の創出を目指す。モデルマウスは外科的に子宮の卵巣側両側と膣を専用クリップで止め、30G針で95%エタノール溶液を子宮内に直接投与して5分間静置したのちにPBSで洗浄した。その結果2、4、6週と経時的に、子宮サイズが縮小すると共に、内膜上皮細胞は消失し間質細胞で充填された。次にモデルマウスにTadalafil投与を2、4週と継続して投与した所、内膜上皮細胞は認められず、多数の血管新生が認められた。今後は血流改善効果を確認するため、血管新生マーカーとしてVEGFR2、血流改善に関与する因子である酸化ストレスのマーカー8-OHdGを、低酸素誘導因子マーカーとしてHIF1αとHIF2α発現を確認する。加えて細胞の増殖とマクロファージの局在を確認するため、Ki67とF4/80についても免疫染色を進めている。
2: おおむね順調に進展している
エタノール投与による子宮内膜発育不全モデルマウスについては、実験系を確立できた。またTadalafil投与による影響についても、現在解析を進めており、当初の予定通りである。
当初の予定では、子宮内膜発育不全モデルマウスにTadalafil投与を投与する事で、子宮内膜上皮細胞が再生されると予想していた。Tadalafil投与期間を延ばして検討したが子宮内膜上皮細胞の再生は認められなかった。他の文献から、再生に必要な細胞源がエタノール処理により枯渇したためと考えられるため、我々のグループで研究している子宮内膜上皮細胞細胞の元となるミュラー管様細胞をマウスES細胞から誘導し移植し、子宮内膜細胞が再生するかを確認する。加えてTadalafil投与により再生が加速するかも含め検討し、その際のマクロファージの関与を解析する。
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日本受精着床学会雑誌
巻: 38(1) ページ: 106-111