研究課題/領域番号 |
20K18166
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山ノ井 康二 京都大学, 医学研究科, 助教 (70868075)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 不飽和脂肪酸 / 高脂肪食 / 卵巣癌 / パルミトイル化 / 翻訳後修飾 |
研究実績の概要 |
まず、自己パルミトイル化することが知られている転写因子:TEADについて、卵巣癌細胞株でもパルミトイル化が生じているか検討した。その結果、確かにTEADはパルミトイル化しており、高脂肪食(High fat diet; HFD)を与えたマウスの組織では、パルミトイル化の亢進がみられた。 またパルミトイル化関連酵素として有名なZDHHC酵素群について、卵巣癌細胞株での発現状況を調べたが、特徴的な発現パターンは見出せなかった。ZDHHC酵素の側から、パルミトイル化関連タンパク質を抽出したり、そのサブタイプを特徴づけることは難しいことが判明した。 次に、脂肪酸の添加が卵巣癌細胞株の悪性性質にどのように影響を与えるか検討した。同じヒト卵巣癌細胞株をマウスに接種して(xenograft model)、HFDもしくは通常食(NFD)の違いでin vivoでの腫瘍増殖能を比較したところ、OVCAR5, ES2, SKOV3など複数の細胞株で、HFDにより腫瘍が有意に大きく増生することが示された。用意したHFDはC18:1(オレイン酸)リッチなものであるため、オレイン酸が特に影響を与えていることが示唆された。そのため、in vitroにおいて、オレイン酸を添加することで細胞株の悪性性質が変化するか検討した。その結果、細胞増殖は有意に亢進し、プラチナ製剤に対する感受性の低下もみられた。またsphere formation abilityの亢進もみられた。 すなわち、ヒト卵巣癌細胞は、特にオレイン酸によって悪性性質が変容することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脂肪酸の添加で卵巣癌細胞の悪性性質が明らかに変容することがin vitroのみならずin vivoで示すことができた。すなわち、脂肪酸が何らかの経路を介して癌細胞の機能に影響を与えており、しかもそれは比較的短時間で生じていることが示唆される。これは大きな進捗であり、脂質による翻訳後修飾が、卵巣癌細胞の機能に深く影響を及ぼしうることを示していると考えられる。 機能が大きく変化することがわかったため、転写因子にある程度絞って、脂質が付加するタンパク質を同定し、脂質付加による翻訳後修飾(パルミトイル化)が、機能変化に大きく関わりうることを、残りの期間で示すことができればと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現時点で、特にオレイン酸が卵巣癌の悪性性質に影響を強く与えることがわかった。次に、具体的なメカニズムの探索にかかりたいと考えている。まず、オレイン酸の添加で様々な遺伝子発現がどのように変化するのか、RNAseqなど網羅的な遺伝子発現変化を評価して探索したい。またオレイン酸が特に付加しやすいタンパク質が存在する可能性もあるため、オレイン酸の改変プローべを用いて、オレイン酸の付加するタンパク質を同定する。様々に機能を変化させるため、転写因子に絞り候補を探す予定である。 さらに、不飽和脂肪酸であることが重要である可能性もあるため、同じ炭素数18の飽和脂肪酸であるステアリン酸を添加した時の機能変化も検証する。さらに、不飽和化酵素の阻害によって、悪性性質への影響がどうなるか、また付加するタンパク質が異なるかも検証する。 同時に、HFDを与えた時のマウス血液検査を行い、脂質関連の生化学項目がどのように変化するのか検証する。それを、我々の臨床例に当てはめて、脂質が変化していることを示唆するサブグループが見出せないか検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
脂肪酸の測定や、タンパク質の測定を行う予定の実験室機器に不具合があり、予定通り測定ができなかった。その分を次年度に繰り越して、測定を行うこととした。
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