研究実績の概要 |
まず脂質が卵巣漿液性癌(HGSC)に与える影響をin vitroで検証した。脂質の中で生体内に多く存在するパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸をそれぞれヒトHGSC細胞株に添加したところ、ステアリン酸の添加により多くの細胞株で著しい増殖抑制効果が見られた。7種類のHGSC細胞株に添加したが、その全てでIC50値が100uM以下という比較的高い細胞増殖抑制効果が見られた。一方パルミチン酸、オレイン酸ではそのような効果が見られなかった。 In vivoおいても、脂質が与える影響について検証した。一般的に使用される高脂肪食をまず用いて、通常食と比して高脂肪食を与えた際に細胞増殖が変化するか検討したところ、OVCAR5, SKOV3にて高脂肪食で有意に細胞増殖が増加していた。ただ高脂肪食に含まれる脂質のほとんどがオレイン酸であった。そこで、ステアリン酸の配合を特に強くしたステアリン酸リッチ食を与えたところ、in vitroの結果と同様、有意に細胞増殖を低下させる結果となった。これも、OVCAR5, SKOV3, ES2, OVCAR8など複数の細胞株で再現性を確認した。 以上より、長鎖脂肪酸の種類によって及ぼす影響が全く異なることがわかった。具体的には、ステアリン酸は細胞増殖を強く抑制する一方、オレイン酸は特にin vivoでの細胞増殖を亢進させるという、全く逆の効果をもたらした。さらにオレイン酸を一定濃度加えた際、ステアリン酸による細胞増殖抑制効果は減弱することをin vitro, in vivoで確認できた。 長鎖脂肪酸の種類によって全く異なる結果になる原因の一つに、アシル化(パルミトイル化)が関係する可能性も考えられ、現在その解明を計画している。
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