研究実績の概要 |
腟内細菌叢は腟だけでなく子宮の健康状態にも影響する可能性を示唆する研究が近年出てきており、当初は腟内細菌叢にのみ注目していたが、女性生殖器全体に対象を広げ、子宮内細菌叢の役割も検討を進めている。 子宮内細菌叢は、サンプル採集時の腟内細菌叢の混入の可能性があるため、腟内細菌叢と違い、細菌叢の構成菌種に関してはまだコンセンサスが得られていないが、Lactobacillus属が優位であると着床率が良いことを示唆する報告がある。そこで腟内優位菌種の一つであるL. crispatusと、トロホブラストの細胞株であるH8を共培養し、浸潤アッセイを行ったところ、L. crispatusの生菌や培養上清はH8の浸潤能を有意に促進した。一方遊走能に関しては明らかな影響はなかった。メカニズムとしてコラーゲンを分解するマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)に着目したところ、培養上清中のMMP-1,2の活性が優位に促進した。一方MMP-9に関しては、有意な変化を認めなかった。またTLR刺激による非特異的な反応の検討のため、TLR3およびTLR4のリガンドによる刺激を行ったが、これらによる変化は認めなかった。以上の結果を国際誌に発表した(Yoshida, Takada et al, Placenta, 2021)。 腟内細菌叢に関しては、なぜヒトの腟内細菌叢だけがLactobacillus優位であるかを説明する仮説は5つほど存在するが、なぜ単一種のLactobacillusが優位になるかは、まだ不明な点が多い。そこで各乳酸桿菌の培養上清を、それぞれ別の乳酸桿菌に添加し、その影響を検討した。結果として、腟内Latobacillus同士はあまり競合しておらず、宿主側の抗菌ペプチドや抗体による選択が行われている可能性が考えられた。現在この仮説を国際誌へ投稿中である。
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