研究課題
腟細菌叢による腟内恒常性維持機構の解明を目指し、昨年度より対象を腟のみならず子宮まで広げ、女性生殖器全体に対する恒常性維持の検討を行っている。理想的な膣内細菌叢はLactobacillus優位であり、産生する乳酸などにより雑菌の繁殖を防ぐなど、恒常性維持に寄与している。Lactobacillusが膣内で優位となるのは、霊長類に限ってもヒトのみの特徴であり共進化してきた可能性が考えられるが、なぜLactobacillus優位となるか諸説あるもののいまだ不明である。そこで我々は膣内における乳酸菌同士がお互いの増殖に与える影響を検討するため、膣由来のLactobacillusを中心に、それぞれの培養上清を添加し、biomassを測定した。その結果、膣内の乳酸菌同士では明らかな増殖抑制は認められなかった。この結果は国際誌に掲載された。また子宮頸部は抗菌ペプチドなどを産生し粘液栓を形成することで、物理的・科学的バリアを形成し、膣から子宮への上行感染を防いでいる。早産の原因の一つである細菌性腟症関連菌であるGardnerella vaginalisが子宮頸部のバリア機能に及ぼす影響はまだ不明である。そこで子宮頸部細胞株にG. vaginalisの培養上清を添加し、抗菌ペプチドであるSLPI、Elafin、炎症性サイトカインであるIL-8の分泌を評価したところ、子宮頚管腺上皮細胞株からのElafinとIL-8の産生を有意に亢進させた。この結果は国際誌に掲載された。さらに女性生殖器は腸脳相関などと同様に、多臓器と様々な相関関係を持っており、これらも恒常性維持に関与していると考えられる。そこでこれらの最新知見を総説としてまとめ、「FRT-organ axes」という枠組みを国際誌に発表した。
2: おおむね順調に進展している
女性生殖器の恒常性維持には常在細菌叢の存在が重要な役割を担っている。そのため恒常性維持機構の解明のためには、常在細菌叢がどのような役割を担っているかのみならず、いったい何が女性生殖器における常在細菌叢の構成を決定しているのか、双方からの観点から検証する必要性がある。常在細菌叢の役割については、昨年度のLactobacillus crispatusがトロホブラストの浸潤を促進することを明らかにした研究に加え、今年度は子宮頸部の抗菌ペプチド産生に与える影響を明らかにした。また何が細菌叢の構成を決めるかに関しては、今年度の結果から乳酸菌同士の競合作用よりも、我々ホスト側の何らかの因子が関与する割合が高い可能性が示唆された。また女性生殖器と多臓器の相互作用の枠組みであるFRT-organ axesの、女性生殖器での恒常性維持における重要性も文献的に検証することができた。よって研究は現在までにおおむね順調に進展していると判断する。
現在までにL. crispatusがトロホブラストの浸潤を促進することを明らかにしているが、他の細胞株でも現在検証中である。また子宮内細菌叢の構成はまだ決まったコンセンサスが得られていないため、Lactobacillus以外の菌種の作用も今後検討する必要がある。また胎盤形成にはトロホブラストの浸潤以外にもmaternal-fetal interfaceの観点から様々な要素が関与する。それらの要素に対し、子宮内細菌叢が作用しうるのかも明らかにしていかなければならない。さらにトロホブラストの浸潤に関しては菌量の影響が影響するとの報告がある(Heusler et al.Front Immunol. 2021 Aug 31;12:698045)。実際我々の検証でも、とある菌種に関して菌量の多少でトロホブラストの浸潤に与える影響が逆転するという予備実験の結果を得ている。この現象に関し、今後さらに検証を重ねていく予定である。過去の報告から、L.crispatus優位の膣内細菌叢においては、複数株のL.crispatusが同時に存在することが明らかになっている。またL. crispatusのプロバイオティクス株は、膣内細菌叢に定着することが難しい場合がある。そこにどのようなホスト側の選別機構が働いているかについても、明らかにしていくことでより効果的な菌株の選別などが可能になると思われる。想定される宿主側の選別機構についても消化管など他の粘膜組織における知見を参考に、検討を進めていきたい。
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