背景:雄性不妊治療の課題は、受精や胚発育、流産に関わる分子レベルの異常を軽減し、精子の機能不全を改善することが求められる。本研究期間では、雄性生殖能力の改善に重点を置き、効率的に胚を確保する方法を検討した。本年度はヒト精子先体の損傷と体外受精(IVF)での胚発生能について検討を行った。 目的:本研究ではヒト精子先体の損傷率をFITC- peanut agglutinin /propidium iodide(PNA-PI)染色法に従って調べ、従来の精液検査、精子断片化率(DFI)、精子未熟率(HDS)との関連を分析した。さらに、先体損傷率がIVF成績を予測できるか検討した。 方法:不妊治療のため受診した夫婦13症例を対象とし、精液性状評価(精液量、総精子数、運動率、奇形率)を行った。DFI、HDSは精子クロマチン構造検査にて評価した。先体損傷率はPNA-PIの正常率によってⅠ群(30%未満:4症例)、Ⅱ群(30~49%:3症例)、Ⅲ群(50%以上:6症例)に分類した。 結果:各群の先体損傷率と性状評価、DFIに有意差は認められなかった。しかし、IVF成績の比較では、3群間で正常受精率に有意差が認められ(P<0.05)、胚盤胞到達率(p<0.05)、良好胚盤胞到達率(p<0.01)はⅢ群が有意差に高くなった。一方、HDSは統計的な有意差は認められなかったものの3群間で傾向があり(P<0.07)、精子核が未熟な精子において、先体の損傷率が高くなる傾向にあった。 以上より、先体損傷率は男性の生殖機能の評価において有用と考えられるが、生殖補助医療(ART)後の妊孕転帰の予測は更に検討する必要がある。今回の研究期間では雄性不妊症に対する治療法の改善について詳細な検討ができなかった。しかし、精子先体の状態を改善するための研究は、ART反復不成功患者の生児獲得に寄与すると考えられる。
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