研究課題
人工知能(AI)の学習技術であるディープラーニングを用いて、タイムラプスイメージングによって得られた胚画像の学習を行った。まずは生児獲得の可否を胚画像から予測するAIの作成を試みた。生殖補助医療を受けた患者から得られた、健児の出生に至った成功胚91個と出生に至らなかった不成功胚379個の計470個の移植胚の画像を対象とした。1つの胚あたり約70~700枚、計140,000枚の画像それぞれに生児獲得成功か生児獲得不成功の正解のみを与えたうえで、Attention Branch Networkを用いてディープラーニングさせた。そして作成されたAIが算出した各画像の成功予測値を加重平均した最終的な各胚の成功予測値で、生児獲得を予測できるかを後方視的に検討した。またAIの生児獲得予測の判断根拠を可視化することで、生児獲得可否に関連する胚の特徴を見出すことも試みた。成功胚群の成功予測値は不成功胚群に比べて有意に高かった(p<0.01)。成功予測値の生児獲得に対するAUCは0.642であり、ROC曲線から算出したカットオフ値より成功予測値が高い場合は、低い場合に比べて、生児獲得に至った胚の割合が有意に高かった(p<0.01)。この結果により、我々が作成したAIが算出した成功予測値は生児獲得の予測に有用であると考えられた。またすべての胚画像を可視化することはできたが、AIが生児獲得成功や不成功を予測できた胚に共通する特徴を、我々が認識できるまでには至らず、生児獲得の予測に有用な胚の特徴を見出すことはできなかった。以上の研究成果で得られた胚画像の解析法をもとに、今度は染色体解析を行い染色体異数性の有無が判明している胚の画像を染色体正常と異数性の正解を与えたうえでAIに学習させ、胚画像から染色体異数性の有無を分類するAIの作成を試みている。
3: やや遅れている
ディープラーニングで良好な性能のAIを作成するためには、できる限り学習させる数を増やす必要がある。十分ではないが、AIの作成が可能と思われる数の染色体解析を行った胚は得ることができたため、胚染色体異数性の有無を予測するAIの作成を開始した。しかし胚画像上の僅かな違いから染色体異数性の有無を分類することは予想以上に難しく、高い精度で分類できる段階までには至っていない。
AIの精度を向上させるために新たなネットワークの構築を模索していく。例えば時系列画像として学習が可能なネットワークを構築することで、胚の発育過程の情報も得ることができると考えられる。AIに学習させる胚の数を増やすことももちろん重要であるため、可能な限り胚の染色体解析も続けていく。
現在までの研究成果を国際及び国内学会にて発表する予定であったが、COVID-19感染症の世界的な流行によりほとんどの学会がWeb開催となってしまったため、旅費の使用が少なかった。次年度は学会が現地開催となれば出席し、研究成果も発表する予定である。もしくは追加する胚の染色体解析および人工知能による胚画像解析に用いる物品費として使用する予定である。
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Reproductive Biomedicine Online
巻: 43 ページ: 843-852
10.1016/j.rbmo.2021.05.002