研究課題/領域番号 |
20K18196
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
田中 佑輝子 京都府立医科大学, 医学部附属病院, 専攻医 (50806297)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 子宮内膜症 / 自然リンパ球(ILC) / 炎症性サイトカイン |
研究実績の概要 |
子宮内膜症は子宮内膜様組織が異所性に増殖する疾患である。子宮内膜症の病因・病態は依然として不明であるが、月経血が逆流して腹腔内に生着するという「移植説」が広く受け入れられている。腹腔内の免疫環境の違いにより異所性の子宮内膜様組織が増殖すると考えられている。病巣局所では炎症性サイトカインが誘導され、さまざまな免疫細胞が活性化している。申請者らは真の免疫抑制能を持つ制御性T細胞(Treg)が子宮内膜症病巣局所では低下しており、マウスモデルを用いてTregを低下させると子宮内膜症病巣が増悪することを示し、免疫のブレーキが働かないことで免疫応答に傾くことを明らかにした(Tanaka, et al. JCEM 2017)。この事象を追究するために病巣の検体を用いたマイクロアレイ解析では、獲得免疫よりも自然免疫に関わる因子に変化を認めた。近年特異的な抗原をもたない自然リンパ球(ILC)が存在し、免疫応答に重要な役割を果たすことが明らかになっている。ILCは産生する炎症性サイトカインおよび転写因子により大きく3つのグループ(ILC1, ILC2, ILC3)に分類される。ILCはT細胞と同様の炎症性サイトカインを産生するが、T細胞とは異なりクローナルな増殖は必要とせず刺激に対して速やかに反応し獲得免疫の発動に寄与する。ILC1はインターフェロンγやTNFになどを産生し、NK細胞を含む集団であり弱い細胞障害性を持つ。ILC2はIL-4, IL-5, IL-9, IL-13などを産生し、リンパ球の特定臓器への分配に関わる。ILC3はIL-17AやIL-22を産生し、自己免疫疾患に関与している。申請者らはILCの異常が子宮内膜症発症のtriggerであり、獲得免疫の活性化を引き起こすという新たな仮説を立て、ILCが子宮内膜症へ及ぼす影響について検証し、本疾患の免疫学的病態機序を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の目的であった子宮内膜症患者と非子宮内膜症患者から検体(末梢血、腹水、正所性子宮内膜、子宮内膜症性卵巣嚢胞)を採取し、自然リンパ球の分画についてフローサイトメトリーで検討することはできている。検討したところ、当初予想していた結果とは逆で、子宮内膜症患者の子宮内膜では非子宮内膜症患者の子宮内膜よりもILC-2とILC-3が減少していた。また、血液や腹水では両群で差を認めなかった。
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今後の研究の推進方策 |
子宮内膜症では、IL-4, IL-9, IL-17などの炎症性サイトカインが増加すること、またアレルギーや自己免疫疾患と類似した側面もあるため、ILC2やILC3が子宮内膜症の病態に関与している可能性があると考え、ILC2, ILC3が増加していることを予想していた。しかしながら、子宮内膜症患者の子宮内膜では非子宮内膜症患者と比較し、ILC-2, ILC-3が減少していた。ILC-3を増加させる因子として、IL-1b, IL-23が知られている。これらの炎症性サイトカインの量をリアルタイムPCR、免疫染色などを用いて測定することを検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
子宮内膜症患者、非子宮内膜症患者の手術時の検体を採取しているが、前年度は予想されていたよりも手術件数が少なかったため、検体数が少なく必要となった抗体や培養液などの消耗品の量が少なかった。 また、COVID-19により学会が中止となり参加できなかったり、オンライン開催となったため旅費がかからなかった。 今年度は昨年度に集まらなかった検体も追加で検討する予定であり、また結果が予想とは異なっていたため、免疫染色、リアルタイムPCR、ELISAなどで自然リンパ球の増減に関わる因子について調べる予定である。それにより、新たな抗体、プライマー、ELISAキットなどを追加購入することが予想される。
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