研究実績の概要 |
子宮内膜症は子宮内膜様組織が異所性に増殖する疾患である。子宮内膜症の病因・病態は依然として不明であるが、月経血が逆流して腹腔内に生着するという「移植説」が広く受け入れられている。腹腔内の免疫環境の違いにより異所性の子宮内膜様組織が増殖すると考えられている。病巣局所では炎症性サイトカインが誘導され、さまざまな免疫細胞が活性化している。申請者らは真の免疫抑制能を持つ制御性T細胞(Treg)が子宮内膜症病巣局所では低下しており、マウスモデルを用いてTregを低下させると子宮内膜症病巣が増悪することを示し、免疫のブレーキが働かないことで免疫応答に傾くことを明らかにした(Tanaka, et al.JCEM 2017)。この事象を追究するために病巣の検体を用いたマイクロアレイ解析では、獲得免疫よりも自然免疫に関わる因子に変化を認めた。近年特異的な抗原をもたない自然リンパ球(ILC)が存在し、免疫応答に重要な役割を果たすことが明らかになっている。ILCは産生する炎症性サイトカインおよび転写因子により大きく3つのグループ(ILC1, ILC2, ILC3)に分類される。ILCはT細胞と同様の炎症性サイトカインを産生するが、T細胞とは異なりクローナルな増殖は必要とせず刺激に対して速やかに反応し獲得免疫の発動に寄与する。ILC1はインターフェロンγやTNFになどを産生し、NK細胞を含む集団であり弱い細胞障害性を持つ。ILC2はIL-4, IL-5, IL-9, IL-13などを産生し、リンパ球の特定臓器への分配に関わる。ILC3はIL-17AやIL-22を産生し、自己免疫疾患に関与している。申請者らはILCの異常が子宮内膜症発症のtriggerであり、獲得免疫の活性化を引き起こすという新たな仮説を立て、ILCが子宮内膜症へ及ぼす影響について検証し、本疾患の免疫学的病態機序を明らかにする。
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