研究課題/領域番号 |
20K18200
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
中村 彰宏 埼玉医科大学, 医学部, 助教 (50750973)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ゲノム安定性 / Zscan5b |
研究実績の概要 |
本研究ではiPS(人工多能性幹)細胞のゲノム損傷の蓄積や、それに伴うゲノムの不安定性が指摘されていることに着目し、ゲノム損傷修復因子を導入することで安定性を向上させることを目的とする。研究を開始するにあたりゲノム修復機構に「初期胚型修復機構」と「体細胞型修復機構」の2つのタイプが存在すると仮定し、体細胞を初期化したiPS細胞ではゲノム修復機構までは初期化されず、増殖の活発な細胞に対し、体細胞型の修復機構がゲノム修復に対応している状態になってしまうが故に、修復が追いつかずゲノムの損傷が蓄積してしまうのではないかと考えた。その上で、iPS細胞に対し、初期胚型修復機構で特異的に発現、活性化している因子をiPS細胞に導入することでiPS細胞に初期胚型修復機構を導入できるのではないかと考えた。また、上述の仮定が正しければiPS細胞は由来体細胞のゲノム損傷を引き継いでいることが考えられる。そこでまず、週齢の異なるマウス個体からiPS細胞を樹立し、それぞれのiPS細胞の遺伝子発現、分化能、代謝活性について解析を行った。その上で、最もゲノム損傷が多いものに対し、初期胚型修復機構を導入することを計画した。 計画に基づき本年度は8週齢、6ヶ月齢、12ヶ月齢、24ヶ月齢などのマウス個体から市販のiPS細胞樹立キットを用いてiPS細胞を樹立し、細胞動態や代謝活性の比較解析を実施した。一方で、本年度予定していた遺伝子発現解析は代謝活性の解析に計画以上の時間を要したことから本年度中に実施することはできなかった。 当初、細胞由来個体の週齢によって細胞の増殖速度や生存率、iPS細胞への誘導効率などの細胞動態に違いが認められるのではないかと予想されたが、現在のところ大きな違いは認められなかった。特に代謝活性の解析でやや加齢マウス由来iPS細胞にエネルギー産生代謝が低下する傾向は見られるものの、有意な差は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
週齢の異なるマウス個体から作製したiPS細胞の解析に時間を要した。特に代謝活性の解析のための細胞培養ではサンプル数が多くなってしまったことから、手技的な差異と思われる結果が見られ、条件検討とサンプリングをし直すための培養に想定の倍以上の時間を要した。また培養期間、回数がのびたことにより培地を始め添加物等消耗品にも計画以上の支出があり、遺伝子発現解析を同時に実施する計画だったが、後回しとなり結果として計画より遅れている状況にある。ただし、遅れはあったものの、解析は完了しデータを得ることができた。また遺伝子解析に供するサンプルは培養の過程で回収済みであり、改めて長期間の培養をすることはなく、次年度の予算から遺伝子解析用試薬(qPCR用酵素など)を購入すればすぐに解析を実施することが可能であることから、本年度の遅れは早期に取り戻すことができるものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である次年度は、本年度予定していた遺伝子解析を早期に実施し、解析を完了させることを優先して進める。これにより得られた結果をこれまでに得られた代謝活性のデータと照らし合わせ、遺伝子とタンパク質レベル両面からメカニズムの解明を目指す。特に遺伝子修復機構に着目した上で解析を含め、Zscan遺伝子を導入することによる代謝全体の影響はもちろん、他の遺伝子修復機構に対する影響にも着目し、遺伝子修復機構全体におけるZscan因子の立ち位置を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度遺伝子解析に用いる試薬を購入する予定だったが、購入を見送ったため次年度使用額が生じた。
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