人工多能性幹(iPS)細胞の老化に伴うゲノム損傷の蓄積や、ゲノム安定性の低下が指摘されており、臨床応用をはじめ、胚性幹(ES)細胞や全能性を有する受精卵と同様の研究素材とするうえでの課題となっている。このような課題に対し本研究ではゲノム修復因子を外部から遺伝子工学的技術を用いて人工的に導入することにより克服することができるのではないかと考え、本研究課題に着手した。研究を開始するにあたり、そもそも細胞に内在するゲノム修復機構には「初期胚型」の修復機構と「体細胞型」の修復機構があり、iPS細胞では体細胞型の修復機構でゲノム修復に対応していると仮定した。このことは言い換えれば、iPS細胞を樹立する際のいわゆる山中4因子による初期化によってゲノム修復機構は完全に初期化されないのではないかと考えた。そこで、iPS細胞に初期胚のゲノム修復に関わる因子のひとつであるZscan5b遺伝子を導入することでiPS細胞がどのように変化するか、その影響を解析した。最終年度である本年度では8週齢、12週齢、24週齢それぞれの週齢のマウスから樹立したiPS細胞のメタボローム解析を実施し、それぞれの代謝に着目し解析をおこなった。事前の実験や論文での報告から老化マウスから樹立したiPS細胞ではミトコンドリア活性の低下が予想され、Zscan5b遺伝子導入による改善が予想された。しかしながら、同週齢由来iPS細胞の株間においても活性に差があり、週齢それぞれの傾向をつかむことができなかった。樹立したそれぞれのiPS細胞では3胚葉分化能を確認し、iPS化を確認したものの、これらの解析結果が手技的なものに由来するものなのか、あるいは株間でのばらつきは想定される事象なのかは明らかではない。ただし、いずれにせよ株間での特性の違いがなにに由来するのか明らかにすることは、本研究の当初の目的と通ずるものであり、今後の課題である。
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