研究課題/領域番号 |
20K18205
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
鈴木 由妃 聖マリアンナ医科大学, 医学研究科, 助教 (00836992)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 卵子凍結 / 妊孕性温存 / ミトコンドリア |
研究実績の概要 |
本研究では、AYA世代を含めた若年がん患者の妊孕性温存療法として行われている卵巣組織凍結時に得られる未熟卵子を体外培養し、成熟卵子を獲得する技術を目指している。未熟卵子を利用した妊孕性温存療法が若年がん患者の新たな治療の選択肢として広がることを期待するものである。未熟卵子の体外培養法の改良に必要不可欠である、卵子における細胞障害の原因究明として、まずは成熟卵子における凍結・融解ストレスによるミトコンドリア動態に関連した傷害を検討した。2021年度の研究成果として、マウス新鮮・凍結融解成熟卵子におけるMT ・TMREでの蛍光染色後に共焦点レーザー顕微鏡でミトコンドリアのクラスター分布およびその面積を解析した結果は、両者でクラスター数に有意差はないが、クラスターあたりの面積は増大することを明らかにした(p<0.05)。また、ミトコンドリアDNAコピー数の解析では両者間に有意義な差は認めず、凍結融解ストレスでは細胞死に至るほどの大きなダメージは受けないことが示唆された。マウス卵子のVitrification凍結融解過程により、ミトコンドリア障害が引き起こされ流ことが示唆された。このダメージはDNA障害が発生しアポトーシスに至るほどのダメージではないが、ミトコンドリア活性が低下し、ミトコンドリアの恒常性に変化をもたらすことが考えられた。本研究によりVitrificationによる凍結障害は、凍結融解卵子での妊娠率低下の原因となる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ感染症の蔓延状態のために必要な海外製の物品納入が滞り、本課題のための実験に遅延が生じた。 また研究期間中に産婦人科医局員の退職による人員不足が発生し、医師としての診療業務の負荷が増えたために実験にあたるためのエフォートが減らされてしまった。研究に従事する時間が削減されたために研究の進捗にやや遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
コントロールとして成熟卵子での凍結融解過程におけるダメージとしてのミトコンドリア動態の解析が完了したため、続いて未熟卵子での凍結融解過程ダメージの検討を進める方針である。今後の研究は以下の4つの検討を予定している。 ①卵子成熟過程における遺伝子情報の変化の立証:卵子からRNAを抽出しRNA sequenceを実施する。(ミトコンドリア関連遺伝子及びアポトーシス関連遺伝子における相関する遺伝子情報を確認するHeatMapを作成し、Pathway解析を実施する。)新たな遺伝子情報を確認し、卵子傷害経路を立証し、確認した遺伝子はシングルセルにてRT-PCRを行い再度確認する。 ②未熟卵子における卵子オルガネラ(ミトコンドリア/小胞体/ゴルジ体)の動態解析:GV期卵子の内ミトコンドリア及びオルガネラの分布を走査型電子顕微鏡解析により行い、特にミトコンドリア動態について膜電位活性をMitotracker・TMREによる蛍光染色後に共焦点レーザー顕微鏡にて撮影する。ミトコンドリアエネルギー産生に関与する小胞体(Cell-Light染色)、ゴルジ体(Goldi-Id染色)の分布も同様に評価を行う。 ③ミトコンドリアFusion/Fishion関連遺伝子を評価:卵子のミトコンドリアは培養や凍結といったストレスを受けた際、ミトコンドリアの質を維持するために融合(Fusion)と分裂(Fishion)を繰り返す。RNAシークエンスの結果をふまえたHeatMap及びPathway解析後のデータをふまえて、Fusion/Fission関連遺伝子をシングルセルによるRT-PCRにて特異的遺伝子を同定する。 ④ブロッカーを使用した、卵子傷害経路の再現性の確認:卵子傷害経路を特定後、その経路に対するブロッカーを使用し、経路の再確認をする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染症蔓延の影響で、海外からの物品の納入が滞り、予定通りに研究を進めることができなかったが、現在流通状況が改善し、物品が入手できるようになっているためにこのまま次年度に実験を続ける。
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