研究課題
進行再発卵巣癌の悪性形質の中でEpithelial Mesenchymal Transition (EMT) 上皮間葉転換は癌の①浸潤転移、②強い免疫抑制、③腫瘍血管新生に関わる。癌を取り巻くEMT形質は腫瘍微小環境における線維芽細胞、免疫抑制系細胞と癌との相互作用により形成され、癌治療抵抗性の因子と考えられる。令和2年度は、卵巣癌の腫瘍微小環境における免疫チェックポイント分子のPD-1/PD-L1ファミリーであるCD276/B7H3の繊維芽細胞、免疫抑制系細胞におけるCD276/B7H3発現パターン解析を、ヒト卵巣癌手術検体とマウス卵巣癌腹膜播種モデル(HM1細胞)を用いて行った。データベースからの解析では、卵巣癌における免疫活性化マーカーであるIFNγとB7ファミリーであるPD-L1,PD-L2は正の相関にあるが、CD276/B7H3は負の関係にあり、免疫抑制の強いEMT型であるMesenchymalタイプに高発現していることが見いだされた。Crispr/Cas9によりCD276/B7H3をknock outしたHM1細胞株でマウス自然免疫モデルで行った検討でM2マクロファージが抑制され、IFNγ陽性CD8陽性細胞がコントロールに比し増加していた。このことからCD276/B7H3を抑制する治療は免疫抑制を免疫活性に転換できる可能性が示唆される。EPCAM、CD45、CD31を用いたフローサイトメトリーによる解析で、CD276/B7H3が高発現する繊維芽細胞の集団をヒト卵巣癌検体を用いて行った解析から見出した。さらにマクロファージや骨髄由来抑制系細胞(MDSC)の分画もヒト、マウスの卵巣癌モデルで調べるとCD276/B7H3が高い分画が存在することが見いだされた。このことは卵巣癌はその腫瘍微小環境において癌だけではなく間質細胞も免疫抑制に関与していることが示唆される。
3: やや遅れている
Covid-19感染拡大下のため物流の問題、感染対策のプライオリティの問題でやや進行が遅れている。
令和3年度は、CD276/B7H3の上流・下流の因子を調節メカニズムの解明を試みる。卵巣癌の同系マウスモデルHM1, ID8を用いて、CD276/B7H3および上流下流因子をそれぞれCrispr/Cas9によりknock outを行うことで、同遺伝子の表現型の違いに基づく、癌と癌関連線維芽細胞との相互作用を機能解明する。ID8に対応するCD276/B7H3のノックアウトマウスC57BL/6(B6) からbackcrossを行い、 HM1に対応するB6C3F1におけるCD276/B7H3のノックアウトマウスを作成する。より悪性度の高いHM1細胞株の同種マウスの系を用いて腫瘍間質におけるCD276/B7H3の表現型の違いから、腫瘍の発育の違いやEMTおよび免疫細胞の分画の影響、サイトカインの分泌など癌と間質細胞の相互作用におけるCD276/B7H3の機能を明らかにする。
Covid-19感染拡大下にあり、物品の流通の問題と、感染対策と研究のプライオリティーから、物品購入を控え、次年度使用額が発生することになった。今年度は、CD276/B7H3の結合蛋白や調節しうる遺伝子を解析し、whole genome CRISPR screening を行い、B7H3の発現制御に関与する遺伝子群を網羅的に同定する研究計画を候補としており、CD276/B7H3上流下流を同定することを研究計画する。またCD276/B7H3のノックアウトマウスのバッククロスをHM1細胞株の自然免疫卵巣癌モデルで行うことで、間質細胞におけるCD276/B7H3の発現の有無が与える癌細胞への影響を検証する。
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BMC Cancer
巻: Aug 5 ; 20(1) ページ: 729
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