昨年度までの研究で、ARID1A変異を有する婦人科癌ではEZH2阻害剤とBAZ2阻害剤の併用が有効でることを確認した。昨年度実施した実験モデルを用いたRNA-SeqによりEZH2阻害剤とBAZ2阻害剤の併用療法による腫瘍増殖抑制メカニズムについて探索し、いくつかの癌関連シグナル制御が関わっている可能性が示されたため本年度はそのメカニズムの検証実験を中心に研究を行った。 RNA-Seqの結果、2剤を併用した細胞においてはヒストンに関連する遺伝子クラスターの発現が一様に上昇していた。TCGAのデータを参照すると同クラスターの過剰発現とARID1A変異は相互排他的な関係性が見られたため、クラスター中の代表的な遺伝子を発現ベクターを用いてARID1A変異陽性卵巣癌細胞で過剰発現させたが、明らかな腫瘍増殖抑制効果は確認できなかった。 一方、いくつかの遺伝子クラスターは2剤の併用により有意に発現が低下していた。特にIL-6シグナルに関わる遺伝子、また凝固に関わる遺伝子クラスターの発現低下が顕著であった。ARID1A変異を有する代表的な婦人科悪性疾患である卵巣明細胞癌では血管内凝固が亢進することが特徴であり、凝固亢進状態は癌周囲の炎症を誘導し、明細胞癌自体の癌増殖や播種転移に有意に働くと考えられている。そこで2剤の併用により凝固に関わるタンパク質の発現が低下するかを確認するため、ELISAにより細胞溶解液及び細胞培養液中の凝固関連タンパク質の濃度解析を行った。その結果、凝固に関わる分子であるプロトロンビンの産生が併用療法により抑制することが示された。BAZ2阻害剤、EZH2阻害剤の併用療法は凝固系タンパク質の発現調節を介して腫瘍増殖を抑制している可能性が考えられた。
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